1. 柔軟かつダイナミックな体制による知の創造

研究力強化/国際協働 最先端研究の推進 再生医療と先端医学研究 再生医療と先端医学研究においては、iPS細胞の早期実用化に向けて、新たな臨床用iPS細胞ストックの提供を開始する等、再生医療の実現化を推進した。令和2年度にiPS細胞及びiPS細胞技術を利用する医療・創薬の早期実用化に向けた研究をさらに強化推進するため、医学部附属病院次世代医療・iPS細胞治療研究センターを設置し、令和6年度には先天性無歯症に対する歯の再生治療薬に係る医師主導治験等、58件の臨床研究や臨床試験を実施した。また、iPS細胞の製造や品質評価等の技術を産業界へと橋渡しする機能を担うため、iPS細胞研究所から一部の機能を分離する形で「京都大学iPS細胞研究財団」を設立し、活動を行っている。
化学と生命科学の融合(iCeMS WPI(世界トップレベル研究拠点プログラム)アカデミー拠点である物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)及び連携研究拠点等において、次のような国際的な最先端研究を展開した。
高等研究院 高等研究センター、WPI(世界トップレベル研究拠点プログラム)アカデミー拠点である物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)、WPI拠点であるヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)及び連携研究拠点等において、次のような国際的な最先端研究を展開した。
On-site Laboratory On-site Laboratory事業に関し、学内での議論を踏まえて平成30年9月に制度化した。令和6年度は新規公募を実施し3件の認定を行い、令和6年度末時点で計14件のOn-site Laboratoryを運営している。On-site Laboratoryでは、iPS細胞、がん研究、材料科学、環境工学等の分野で国際共同研究の展開が見られ、取り組み中の国際共同研究プロジェクトが49件に達したほか、計22報の国際共著論文が発表されるなど、国際共同研究の活発化が確認できた。

【新規で認定したOSL(()内は設置場所)】
  • 地震・津波未災学国際Lab(メキシコ、京都)
  • 京都大学・中国医薬大学研究施設(台湾)
  • インテリジェント化学生命情報学イニシアチブ(インド、京都)
また、「OSL事業を活用した国際的な研究活動支援経費事業」により採択されたOn-site Laboratoryにおいて、以下のような取り組みを行った結果、国際共同研究及び若手研究者の交流の促進等に繋げることができた。

【具体的な取り組み例】
  • 京都大学サンディエゴ研究施設
    日本と台湾のスタートアップ企業11社を米国に派遣し、ライフサイエンスショーケース及び起業家向けの法務、労務等に関する教育セミナーを実施することにより、医療領域の革新的技術の海外展開を支援した(令和7年2月20日~21日実施、104名参加)。
  • スマート材料研究センター/グリーン多孔性材料ラボラトリ
    京都大学OSL合同シンポジウムをタイで実施し、主に新材料(触媒、多孔体、二酸化炭素活用)の最新研究成果の共有を行うとともに、学生、若手研究者の材料科学分野の研究交流を活発化させた。(令和7年2月11日実施、約50名参加)。
  • 京都大学―清華大学環境技術共同研究・教育センター
    日中環境技術共同研究・教育シンポジウムを対面とオンライン併用で開催し、両国の学生、研究者、企業関係者も交えた研究交流、将来的な共同研究先の開拓の場となった。(令和6年12月7日実施、88名参加)。
以上のとおり、On-site Laboratoryでは、国際共同研究の推進に加え、産業界との連携強化、国際的な教育連携を深化させる等、様々な波及効果がもたらされているほか、令和9年度末までに外国人教員(研究者含む)を600名確保するという本学の目標の達成にも資することが期待される。

2. 高度で多様な頭脳循環の形成

人材獲得 ・育成/国際化 学生 Kyoto iUP
(Kyoto University International Undergraduate Program)
Kyoto iUP(Kyoto University International Undergraduate Program)は、優秀で志高い留学生の学部段階での受入れを拡充するとともに、国際性豊かなキャンパス環境を創造し、同時に国際社会で活躍する日本人学生を養成することを目的としている。令和5年度に実施した予備教育履修生選抜審査(令和6年10月生選抜審査)では、576名の出願者を得て、31名が最終合格、入学意思確認の結果24名が入学した。令和6年10月生に対し、令和6年9月まで日本語プレ予備教育として、出身国・地域の語学教育機関における日本語学習の受講費をサポートするとともに、令和6年10月からは国際高等教育院において日本語教育及び教育到達状況に差のある数学、物理、化学、生物、世界史の補習を中心に予備教育を実施した。在籍するKyoto iUP留学生は学部生・予備教育履修生合わせて104名、これまでに受け入れたKyoto iUP留学生の出身国・地域は20の国・地域となり、広く海外から優秀で志高い留学生の受入れ拡充が進んでいる。
また、広報・リクルート活動については、対面での活動とオンラインでの活動を組み合わせながら、ASEAN諸国(タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール)をはじめ、台湾、香港、インドのほか、全世界を対象に合計38の説明会や懇談等のイベントを行い、2,200名以上の学生・保護者・教員らにアプローチを行った。この結果、令和7年10月生選抜(令和6年度に選抜審査を実施)では、前年度よりも多様な、62の国・地域から過去最多の795名の出願者を得た。
卓越大学院プログラム 先端光・電子デバイス創成学」、「メディカルイノベーション大学院プログラム」、「社会を駆動するプラットフォーム学卓越大学院プログラム」について、順調に学生が入学しており、それぞれ55名、89名、52名(令和7年3月31日現在(令和6年度修了者を含む))の履修者が在籍し、プログラム修了者30名(令和6年度)を輩出している。
大学院共通・横断教育科目群 大学院共通科目群」について、令和6年度は開講科目数47科目、履修者数2,073名となった(令和5年度35科目1,953名)。令和6年度から大学院共通科目として以下の6科目を新規開講した。

 キャリア・アントレプレナーシップ論
 Research Ethics and Integrity (Sci. & Tech., Life Sci.)
 Research Ethics and Integrity (General)
 大学院教育支援機構ジョブ型研究インターンシップI
 大学院教育支援機構ジョブ型研究インターンシップII
 研究開発型企業経営論

大学院横断教育科目群」について、令和6年度は開講科目数98科目、履修者数713名となった(令和5年度84科目660名)。
大学院教育支援機構
GST(Graduate Student Training)機能の強化及び留学生リクルーティング
令和3年10月に大学院教育支援機構を設置し、学生に対する経済支援の拡充、優秀な留学生の獲得、キャリア形成及び産学連携活動に資する教育機会の提供等の大学院教育にかかる各支援について、各研究科単独では困難な課題に対して全学的かつ包括的に取り組みを行っている。
指定国立大学構想のもとでTA教育等を担っていたGST推進室の機能については、大学院教育支援機構に置かれた就学・キャリアサポートオフィスで見直しを行い、大学教員を目指す大学院生の授業設計能力・運営能力を涵養する「教育能力向上コース」として整理し、同コースを令和5年度から新設した。この「教育能力向上コース」をはじめとして、大学院教育支援機構では、大学院生の専門領域を超えた幅広いキャリア形成を支援するため、横断科目及び大学院共通教育科目等をパッケージ化した大学院教育支援機構教育コースを設置している。令和6年度は、既存の3コース「産学協同教育コース」「教育能力向上コース」「グローバル生存学コース」に加え、新たに「デザイン学コース」「数学・数理科学イノベーション人材育成強化コース」を開設し、計5コースとなった。
TA教育に関しては、TAの上位職として、博士後期課程学生、4年制博士課程及び一貫制博士課程の後期3年に相当する課程の大学院生がより高度で自律的な教育補助業務に携わるTAS(Teaching Associate)を制度化した。
さらに、大学院教育支援機構アドミッション支援室(AAO)において、全世界を対象に留学希望者からの問合せ対応、各国の教育制度や資格制度の検証、本学大学院への進学希望者の学歴検証及び進学希望者と各学部・研究科等についての丁寧な情報提供などを行うことで、優秀な留学生の獲得のための支援を行った。また、留学生受入に意欲のある部局及び海外拠点と協力し、他大学等主催の留学フェアへの参加だけでなく現地での募集活動を行うなど、積極的に留学生リクルーティング活動を行った。
大学院教育支援機構グローバル展開オフィスでは、令和6年度から研究インターンシップ生を約2か月間、様々な分野の研究室に受け入れる取り組みとしてKU-STAR(Kyoto University Short-Term Academic Research)Programを実施、5~7月に実施したKU-STAR for IndiaではIIT(Indian Institute of Technology, インド工科大学)から18名の学生(応募128名)を、1~2月に実施したKU-STAR for Australiaではメルボルン大学から4名の学生(応募8名)を、それぞれ受け入れた。KU-STARでマッチングした学生が、本学大学院の正規課程に進学することを積極的に後押しし、優秀な留学生獲得に繋げる取り組みである。また、海外渡航を伴うリクルート活動として、今年度はインド・オーストラリア・インドネシアを重点対象地域と定めて活動を展開した。インドは、10月にJST主催・第三回日印大学等フォーラムが開催されるのを契機にデリー、ハイデラバードを訪問、オーストラリアは2月にシドニー、メルボルンを訪問し、ともに現地教育機関等におけるKU-STARリクルート等の良い機会となった。インドネシアは、ジャカルタにおいてトップ4大学を主な対象とする留学フェアを開催(参加者:207名から選抜された31名)するとともに、フォローアップイベントとしてOnline Study Abroad Fairを開催(参加者:全体セッション380名、個別セッション26名)した。
このほか、海外の優秀な留学生を積極的に受け入れる意欲のある研究科専攻(研究室)をピックアップし、その研究内容を英語で具体的に紹介する動画を製作するとともに、これらの動画を掲載するポータルサイト・Meet KU Researchersを整備、令和6年度末までに48本の研究室動画を製作した。併せて、教職員向けに奨学金情報、海外広報や大学院留学生リクルートに必要な情報をまとめた学内向けサイトを公開・拡充した。
令和4年度から開始した、優秀な大学院生の海外渡航を支援するDoGS海外渡航助成金(一人あたり最大40万円の渡航支援)は、今年度は257件の応募から61件を採択した。
大学院教育支援機構内にリカレント教育センターを設置し、主に社会人学生を対象に実施するリカレント教育コース「社会イノベーション人材育成コース」を企画・検討、令和7年度から実施することとなった。これに関連して、大学院教育支援機構が科目等履修生を受け入れられるように整備し、広く社会人に対してコースの門戸を開く仕組みを整えた。
大学院生・留学生への施策 学生への経済支援の強化を進めるため、民間資金の獲得に向けた以下の取り組みを行い、国内外を問わず優秀で高い志を持つ人材の獲得・育成を図った。
  • 平成30年1月に創設した「京都大学修学支援基金給付奨学金」について、国の施策として令和2年度から実施されている高等教育の修学支援新制度の対象とならない大学院生に対し、令和6年度は13名を奨学生として採用し、468万円を支給した。
  • 令和4年度より新たに「CFプロジェクト奨学金」(向上心に富み強い創造心や研究威力をもつ学生が、経済的理由などでその志を途中であきらめなくてすむようにすることが目的)の支給を開始し、3年目となる令和6年度は修士学生68名、博士学生16名を新規採用し、年額120万円を支給した。
  • 令和4年度で終了した「京都大学基金企業寄附奨学金(CES)」を事業継承し、令和5年度より新たに「大学院教育支援機構企業寄附奨学制度(DDD:Division of Graduate Studies Donor Designated Scholarship)」を創設し、本学卒業生や修了生が活躍する民間企業等からの寄附を原資として、極めて優秀な本学大学院生に経済支援を行い、研究活動を奨励する取り組みを開始した。令和6年度の参画企業は6社から9社に増え、1名あたりの経済支援額は45万円~125万円、経済支援を受けた学生は21名であった。
若手研究者 白眉プロジェクト 自由闊達で独創的な発想に基づく挑戦的な課題研究に取り組む若手研究者を、学術領域を問わず世界中から募り、その研究を5年間保証する京都大学次世代研究者育成支援事業「白眉プロジェクト」については、プロジェクトの構成を見直し、従前の白眉プロジェクトを踏襲した【グローバル型】に加え、文部科学省「卓越研究員事業」を活用した【部局連携型(テニュアトラック型)】による募集を平成28年度から新たに行い、テニュアトラック制の若手研究者採用のスキームを確立した。【グローバル型】については、令和5年度は採用予定人数を前年度公募と同規模の20名として公募を開始し、256名の応募があり、20名(准教授7名、助教13名)の採用を決定した。
優秀な若手教員獲得・育成 若手教員雇用の促進に資する施策として、企画委員会の下に設置した若手重点戦略定員専門委員会において、平成30年度に若手重点戦略定員事業を制度化し、学内公募・審査を経て、平成31年4月1日付けで34学系に助教計40名分、令和3年4月1日付で20学系に助教計20名分の定員を措置するに至った。本施策を契機に、各学系における適正な教員年齢構成実現に向けた意識の醸成と若手教員の雇用拡大が進捗しており、同時に大学全体の若手教員比率向上につながった。今後は、雇用した若手教員を中心とした研究の活性化を目指す。
本学は指定国立大学法人構想で第4期中期目標期間内に若手教員比率を30%に引き上げることを目標としているが、令和6年度末時点の若手教員比率は24.9%となった。引き続き、若手重点戦略定員事業等を活用し、若手教員の雇用拡大を図っていくとともに、雇用した若手教員を中心とした研究の活性化を目指す。

3. 新たな社会貢献を目指して

社会との連携 産官学連携 「京大モデル」の構築 京都大学が有する研究成果等の「知」の更なる活用促進のため、コンサルティング事業、研修・講習事業等を実施する事業子会社である京大オリジナル株式会社が中心となり、産業界を始めとした多様なステークホルダーとの連携拡大を目指した取り組みを進めることで、産官学連携の新しい「京大モデル」構築によるバリューチェーン(価値連鎖)を加速的に展開した。
令和6年度においては、カーボンニュートラルの実現に向けた産官学の広範な連携体制の構築や共同研究および新規事業の創出を目的として、京都大学、株式会社日本総合研究所、京大オリジナル株式会社の三者により令和5年度に開始した協業活動の一環として、「カーボンサイクルイノベーションコンソーシアム」を設立し、製造業や建設業などの民間企業、地方公共団体が参画し、関連政府機関とも対話を行いながら、産官学一体となって活動を行った。また、本協業活動の第二弾として、過疎地域における持続的な交通サービスの実現を目的として「ReCIDA(Renewing Community Infrastructure in Depopulated Areas)コンソーシアム」を設立し、各自治体や民間企業と共に活動を開始した。今後も三者はカーボンニュートラルに向けたあるべき姿の議論を通して、共同研究や実証実験の企画、民間企業や政府機関と協働した研究会・コンソーシアムの企画、情報発信、政策提言、外部機関との連携などを推進していく。
「組織」対「組織」による産官学連携の促進 成長戦略本部による大型共同研究の企画提案や研究の集中的マネジメントにより「組織」対「組織」の大型連携を開始し、企業との連携を強めた。また、成長戦略本部を通じた企業との調整・交渉支援、研究契約、知財、その他産学連携活動における法務支援等の全学サポートにより共同研究組成を加速させた。
社会への貢献 日本とASEANの相互発展 平成27年に採択され、引き続き第2フェーズ(令和2年9月~令和7年3月まで)が開始されたJST国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム)「国際共同研究拠点」のもと実施するプロジェクト「日ASEAN科学技術イノベーション共同研究拠点-持続可能開発研究の推進」(JASTIP)により、中核拠点・研究総括班(WP1)として共同研究のコミュニティを拡大・強化するJASTIP-Netを企画実施した。環境・エネルギー班(WP2)、生物資源・生物多様性班(WP3)、防災班(WP4)で構築したネットワークを通じてSDGs達成に向けた多面的・多層的な共同研究プラットフォームの形成及び国内外研究機関等との連携強化を進めてきた。なお、本プロジェクトについては全学海外拠点であるASEAN拠点が支援を行っている。
また、リサーチ・アドミニストレーター(URA)が、科学技術連携を担うコーディネーター人材の育成に向けて、ASEAN地域での各種会議及びワークショップで講演を行い、日ASEAN共同研究のネットワークの基盤強化を行った。
JASTIP事業については令和6年度で終了となるが、AUN/SEED-Net と連携して、⽇・ASEAN 統合基金(JAIF)に新規プロジェクト「地球規模課題の解決に向けた日ASEAN 科学技術・イノベーション(STI)コーディネーションのための人材能力開発」(プロジェクト経費992,460.22米ドル)を申請し承認された。本プロジェクトは日ASEAN 間で持続可能な科学技術・イノベーション(STI)共創プラットフォームを構築することを⽬指すプロジェクトであり、今後一層のASEAN 地域との協力関係の強化につながるものと考えられる。
人文・社会科学の未来形の発信(人と社会の未来研究院 令和5年4月1日付けで研究院長が交代し、副研究院長を3名体制にするとともに、調整会議を研究院長と副研究院長を構成員とする執行部会議に再編し、研究院長を支援する体制を整備した。新体制として、「学内での学際連携による総合知の創出」、「産業界や行政などの社会連携から創発する新たな研究の推進」、「人文社会科学の知見の学術的発信機能の拡充・強化」の3つの方針により、研究力の底上げと、人文社会科学知財の国際的な活用・プレゼンスの向上に取り組み、将来的には人文社会科学の国際的な拠点となることが期待される。

令和6年度には、萌芽研究部門に「人・地球・社会のウェルビーイング」に基づいて人文社会科学や文理融合的な新しい学術領域を創成することを目指し、萌芽的・探索的な研究を実施するため「地球社会のウェルビーイング:自然との共生」、「国際的なウェルビーイングの認識の科学的分析」、「自然とアートがもたらすウェルビーイング」の3つのテーマに基づく5年間の共同研究特定プロジェクトを設置し、特定プロジェクトを推進するためのプロジェクトリーダー(任期付きの教員)を配置した。このことにより、人文・社会科学分野間の共同研究、文理融合的研究の増加、民間企業や自治体等との共同研究を推進する具体的な研究実施基盤体制を構築するにいたった。

併せて人文・社会科学の成果情報発信、国際連携事業、国際学術情報発信、産学連携のネットワークの構築及びファンドレイジングの推進といった事業を推進する高度専門職人材として6名の教職員を配置し人文・社会科学分野が関わる研究成果の情報収集体制、情報発信体制並びに情報発信を迅速化する体制を整備した。
人と社会の未来研究院において、以下のような各種取り組みが実施されており、人文・社会科学の分野における分野相互間の交流や文理融合的取り組みを促進し、人文・社会科学の未来形を切り拓く動きが進んでいる。

人文・社会科学分野全体から自然科学分野も含んだ文理融合研究の成果発信をする国際学術誌(PSYCHOLOGIA)を刊行し、人文社会学の融合的研究を英文で発信した。
高度な研究の推進と学問の発展を促すとともに若手研究者の育成支援を目指すことを目的に若手出版助成の募集を行い、選考の結果令和5年度は25件(25,000千円)令和6年度は22件(22,000千円)の助成を実施した。
分野融合研究や文理融合研究を推進し、人・社会・地球の共生とウェルビーイングに資する新学術領域の創成を目指す連携研究プロジェクトを実施し、令和5年度・令和6年度にはそれぞれ15件を採択し、採択者と研究院の教員が相互に対話を行う連携研究プロジェクト成果報告会を企画運営した。
オンライン講義「立ち止まって、考える」を企業とタイアップし「立ち止まって、一緒に考える」新企画として実施した。ウェルビーイングに関する国際シンポジウムを開催した。また、海外からの研究者が研究院に長期滞在するための「サバティカルフェロー」制度を導入し、運用を開始し7名の研究者を受け入れ(米国3名、中国1名、台湾2名、ブータン1名)他部局教員との交流も促進した。

4. 世界に伍する京大流大学運営

ガバナンス強化/財務基盤強化 ガバナンス強化 京大版プロボストと戦略調整会議 研究力強化に主眼を置いた体制を議論する研究領域別意見交換会を令和6年4月から9月にかけてプロボスト主導のもと実施し、全学から延べ約150名の教員が参画した。戦略調整会議においては、令和6年10月に理事補5名と気鋭の若手・中堅教員9名を委員に任命し、前述の意見交換会における検討結果を踏まえ、令和6年度中に5回開催して全学的な視点から研究組織の将来像を議論し、幅広い領域と年代の意見がプロボストをはじめ執行部に届けられた。世界に伍する研究大学に相応しい研究組織改革が学内構成員の議論を経て進められることが期待される。また、前年度に引き続き、国際卓越研究大学構想で掲げた世界に伍する研究大学に向けた構造改革(研究力の強化、研究成果の活用推進、自律的な大学組織への変革)の中でも、先行して実現可能な組織再編に着手し、プロボストが積極的に関与した。具体的には、本学の研究推進・研究支援機能の一層の強化を担う組織となる総合研究推進本部(令和7年1月1日付け)を設置し、教育上の諸課題に対応する教育改革を推進する組織となる教育改革戦略本部(令和7年4月1日付け)の設置に向けて議論した。
エビデンスベースの大学運営 大学の今後の方向性に係る判断を支援する分析情報を、リサーチ・アドミニストレーター(URA)が役員へ提供することで、大学の経営マネジメント強化への貢献が拡大した(令和6年度41件提供)。また、プロボストが行う業務に係る必要な企画立案、連絡調整等を行うプロボストオフィスにURAがメンバーとして参画し、研究IRを担当するURA、国際グループURA等と協働して、プロボストが行う活動に必要な調査や情報収集・提供を行った。
さらに、IR推進室において、大学運営に関する課題等、様々なテーマについて調査分析を行い、その結果を可視化して関係者へ提示した。具体的には、持続的な組織改革に向けた取り組みとして、全教職員を対象に「京都大学における教育研究環境の向上に向けた意識調査」を新たに実施し分析結果を全学的に公開することで、本学の現状や課題を学内で共有することで執行部と構成員の対話を構築するとともに執行部や部局における組織運営や経営判断の意思決定を支援した。また、「アカウンタビリティレポート2024」では前年度版から新たに25項目を追加し、エビデンスベースの大学運営をよりサポートするために必要となる情報を集約し、本学がどのように社会的責任を果たしているかを明らかにした。学内連携強化の結果、アカウンタビリティレポートの制作・公表を通じて、大学の運営や成果、状況に係る情報公開の程度を質と量ともに向上させていくとともに、基本情報のデータセットやその分析に資する情報が誰でも容易に入手できる環境の整備を進めることで、本学のビジビリティ向上にもつながった。
財務基盤強化 自己収入の拡大(京都大学基金 京都大学基金の寄附募集活動について、以下のような取り組みを行った。
令和6年4月より成長戦略本部を設置し、産学連携やファンドレイジング(従来の京都基金室、東京基金室)、同窓会や社会との連携を担う部署が一つになり、緊密な連携をとりながら、寄附金等の国からの資金に依存しない自立的な自己資金の獲得のための活動を展開。寄附拡大の成果を収めるためには、関西圏と関東圏の経済規模を踏まえると、経営者層や企業役員クラスなど在京のキーマンの開拓は必要不可欠であり、東京基金室のオフィスを日本橋からより好立地な丸の内に移転し体制の強化を図った。両基金室のファンドレイザー(寄附募集に係る企画・渉外活動の担い手)が中心となり、主に本学出身者が役員を務める企業を中心として、個別訪問等の寄附募集活動を実施した。また、企業訪問の他、本学主催のフォーラム等のイベントを最大限に活用し、その参加者に対して、寄附の呼びかけを実施した。
また、近年増加する遺贈・相続財産からの寄付に対応するため、遺贈寄付相談センターを設置した。学内外のニーズに対応すべく、ファイナンシャルプランナーの資格を持った専門のスタッフを配置して対応に当たった。
  • 企業等の訪問件数(延べ1,000件)。
  • 同窓会事務局による同窓会組織立ち上げ支援やオンラインサービスによる同窓生ネットワークを拡大した。(登録者数49,613人)
  • インターネットを利用して不特定多数の支援者から寄附金を募るクラウドファンディングを実施し、過去の寄附者とは異なるターゲット層へ寄附のアプローチを行った(2件)。
  • ホームカミングデイや東京フォーラムを開催し、卒業生をはじめとしたステークホルダーとの交流・情報発信のイベントを通して、大学支援者との連携強化、支援風土の醸成を推進した。
  • 近年、遺贈寄附へのニーズ・関心が高まる中、金融機関の相続担当者による資産活用セミナーを開催し、遺贈寄附の受入拡大の取り組みを進めた。(申込者数:113名、参加者数:70名)
  • 本学卒業生・修了生が活躍する企業からの寄附による給付奨学金である「大学院支援機構 企業寄附奨学制度」を創設し、企業からの寄附受入れの拡大を図った。(9社、29,100千円)
  • 部・サークル活動を行っている学生団体を応援するオンラインチャリティーイベント「Giving Campaign2024」を開催し、当該イベントを通じて寄附金を獲得するとともに新たな寄附者層の開拓を図った。総長・理事及び基金室のファンドレイザー(寄附募集に係る企画・渉外活動の担い手)が中心となり、125周年寄附募集活動で関係ができた企業などに対して、資金の使途や進捗に関する情報提供を行い、寄附者とのコミュニケーションを一層充実させるフォローアップ活動の強化を図った。これら活動の強化によって寄附者との信頼関係を築き継続的な支援へとつなげることができた。その結果、令和6年度は55.6億円の寄附を受入れるに至り、本学の安定的な財務基盤の構築の一助となっている。
自己収入源の多角化に向けた資金運用については、以下の取り組みを行った。
従前より行っている金銭信託運用等に加えて、令和3年度に受入を行った「小野薬品・本庶記念研究基金」(230億円)を原資とした資金運用を開始し、金銭信託による運用規模を拡大した。本運用では、資金運用管理委員会による適切なリスク管理のもと、円建債券による自家運用と金銭信託による委託運用を組み合わせた新たな手法により、安定的なリターンを獲得している。
また、令和5・6年度にかけて、業務上の余裕金を原資とした長期運用額を、従前の150億円から300億円に倍増させ、大学全体の収入増加に取り組んでいる。
京大収益事業 平成29年6月30日に本学が指定国立大学法人に指定され、指定国立大学法人にのみ出資が認められているコンサルティング事業、研修・講習事業等を実施する事業子会社である京大オリジナル株式会社を平成30年6月に設立し、ベンチャー創出機能を有する「京都大学イノベーションキャピタル株式会社」及び技術移転機能を有する「株式会社TLO京都」、「iPSアカデミアジャパン株式会社」の子会社と、また、法務部門から独立化を図った「京都アカデミア法律事務所」、組織対組織の共同研究等を集中的にマネジメントする「成長戦略本部(学内の産官学連携推進組織である産官学連携本部、オープンイノベーション機構、渉外部を統合して令和6年4月1日に設置)」との有機的な連携を図るなど、研究成果・知的財産の活用促進に向けた産官学連携の新しい「京大モデル」構築を令和6年度も引き続き進展させた。