理事ノート(2004年11月2日)

理事ノート(2004年11月2日)

「留学フェア」に900人!

ポスター

満員の会場

国別相談コーナー

11月2日、秋晴れの京大時計台記念館は約900名の若者たちの熱気に包まれた。京大が初めて試みた「留学フェア」が開かれたのである。午後12時半に国際会議場で始まったフェアでは、まず尾池和夫総長が「このフェアのロゴになった可愛い顔に愛称を付けてくれた人に海外旅行チケットを出したいですね」と宣言して満員の参加者から拍手喝采を浴びた。その後、ニュージーランドのオークランド大学に留学した農学部の宮本 知世子さん、米国ジョージ・ワシントン大学に留学した法学部の片山 直樹さんがトーク・ショーを行った。

午後1時半からは、国際交流ホールに設けられた留学生センター、留学先輩コーナー、米、英、仏、独、伊、北欧、中、韓、豪など国別相談コーナー、TOEFLなど語学検定試験相談、海外インターンシップを仲介するアイセック、語学研修・海外旅行チケット案内、海外仕様のパソコン紹介の京大生協など数多くのブースが設けられ、順番待ちの学生で各ブースとも終日ごったがえした。また、3つの会場で、比較的希望者が多いと思われる英米独仏豪など国別のオリエンテーションも行われた。私は、豪、英、独の説明会を覗いてみたが、各会場とも50-70名ほどの参加者が担当者の説明やビデオに熱心に聞き入っていて盛況であった。

午後6時半からはカフェ・レストラン「カンフォーラ」で総長や学生担当の東山副学長、遠藤国際交流委員長も参加し、ボランティアで先輩として相談に乗ってくれた京大生、各国の国際交流機関の担当者を招いてのレセプションが開かれた。国際交流担当の入倉副学長の司会で和やかな雰囲気がかもし出され、時間ぎりぎりの8時過ぎまで留学についての話題で盛り上がった。

実は「留学フェア」のアイデアは、私が京大赴任以来暖めていたもので、留学生課職員のやる気と熱意に支えられて実現したものである。私は、かねてから最近の若者の内向き志向が気になっており、機会があれば留学の楽しさ、すばらしさをもっと多くの京大生に知ってほしいと考えていた。インターネットを開けば、世界のニュースや状況が瞬時に手に入る今日の世界で、若者たちは苦労して海外に出かけなくても何でも分かると勘違いしているのではないか。自らの足で歩き、自らの責任で右に進むか左に曲がるか判断する、アジアでも欧米でも若者たちは若者たちなりに自分の意見を持ち、それを主張するが、それに対して自分の考えを述べなければならない・・そういう経験を「留学」は含んでいる。語学留学だろうが、短期のホームステイだろうが、「留学」は多かれ少なかれそういう要素をもっている。そういう経験をしてきた若者は必ず一回り、ふた回りは大きくなって帰ってくる。

ガイダンスで留学体験談を
語ってくれた学生さん達と

しかし、何といっても「留学フェア」は初めての試みであり、どのくらいの学生が集まってくれるか、当日になるまでまったく見当がつかず、正直不安であった。この企画の実現に奔走し、行動力を発揮した留学生課の白石賢一君も同じ思いで、直前まで1・2回生が受講する外国語の授業に出かけていってパンフを配り、参加を呼びかけていたし、私は私で知り合いの京大の先生にメールを送って授業で学生に参加を呼びかけていただくよう頼んだりした。また、懇意の新聞記者にも取材をお願いした。

学生が集まらなければ、東京や大阪からたくさんの資料を持って参加していただいた各国の文化交流機関など関係者を失望させることになるし、来年の開催も危うくなる・・しかし、そんな不安は当日続々と時計台に集まってくる学生たちの姿に消し飛んだのである。やはり彼らも殻を破って新しい地平に飛び出したいという潜在的な夢、希望をもっていたのである。必要なのはきっかけだったのかもしれない。

ロゴをデザインした古賀さん(左)と
留学生課の白石君(中央)

こういう企画を考え、実施に向けて関係者と会い、夢を語り、実現にこぎつけ、参加者の満足そうな顔を見る・・これこそが大学の現場で仕事をするものの喜びではないか。まさにフェアのキャッチ・コピーであった「行ってヨカッタと言えるよ、きっと」そのままだった。フェアのポスター、フェアのプログラム構成、広報、レセプションのワイン選定に至るまで、関わった職員の創意と心が伝わってきたのはそういう「夢」があったからだろう。

総長は法人化にあたっての職員に向けての挨拶で「失敗を恐れず提案をする職員であってほしい」とメッセージを贈ったが、今回のフェアの成功が他の職員にも大きな励みになる事を願ってやまない。「留学フェア」は京大の年中行事として確立し、いずれ伝統になる。他大学でもこれに習って同じような企画を立てるところが出てくるだろう。今回のフェアを成功させた留学生課、留学生センターの職員は、後輩や友人にこれからずっと「あれを考え、実現したのは自分だ」と誇りを持って語る事ができるに違いない。