局長ノート(2003年12月12日)

局長ノート(2003年12月12日)

本間 政雄

時計台記念館のオープン

平成13年に始まった時計台の大改修工事がいよいよ終わり、12月13日(土曜)にオープニング・セレモニーが行われ、15日から開館の運びとなった。仮店舗から時計台に戻ってくる生協のショップなどの中には、既に営業を開始しているところもある。先日、退任間近の長尾総長をご案内したが、格調高いできばえに大変ご満足いただいた。総長の本当にうれしそうな顔をこの仕事に関わったすべての教職員に見てほしかったと思う。

この改修工事は、老朽化した建物に免震工事を施すとともに、旧法経一番教室を取り壊して新たに国際会議も開催できる大ホールを建設するなど、学術交流拠点、京大の知的資産を社会へ発信する基地として必要な機能を付加するために行われたものである。総工費は34億3千8百万円にのぼるが、その全額を京都大学教育研究振興財団の行った京都大学百年記念事業募金からの助成によった。

再生された時計台の諸施設の概要は、ホームページを参照していただくことにして、ここでは詳しい説明を省くが、この歴史的事業に多少とも関わった者として、再生した時計台の今後のあり方についていくつか思いつくままに書きとめておきたい。

image

これからの時計台記念館の運営と企画

第一に、時計台の物理的な再生は成ったが、時計台がその使命を十分に発揮できるかどうかは、これを支える事務職員の企画力、行動力、熱意に大きくかかっているということである。

百周年記念事業として時計台の改修を検討した段階では、時計台を記念館として、百年記念ホール、国際交流ホール、会議室、京大サロン、名誉教授室、レストラン、展示ホールなどが設けられることになっていた。しかし、これらはあくまで時計台記念館を構成する施設の基本コンセプトであって、その細目は事務局の各部の多くの職員が関わり、一つ一つ詰めてきた。特に、京大に関するあらゆる質問、問い合わせに応じる「大学総合案内」や京大教官の著作や京大グッズを販売する「京大ショップ」の設置は事務局のアイデアで実現した。さらに、地下1階のピロティに設けられた学会運営をサポートする「コンベンション・サービスセンター」や、お弁当や飲み物をゆっくりと取ることのできるテーブル、椅子を配したオープン・キャフェ的な空間は生協の提案によって実現したものであるが、これも地下空間が何となくすさんだ場所になるのを防ぐために何かできないか考えていた事務局の意向とうまく噛み合ったものである。

いずれにしても、時計台記念館にどのような施設を設けるかについては、百年記念事業委員会で大筋は決められていたもの、それらはあくまで大枠であって具体的に何をどのように配置するか、それらの施設を効果的に機能させるために付加的に必要な施設・設備はないか、運営に必要な財源はどうするか、単なる貸しホールではなく京大としてどのような主催事業を行うか、京大のもつざまざまの知的資産を、この記念館を舞台にどのような形で発信していくか、など時計台記念館にいわば「魂を吹き込む」ための実質的な作業は事務局がまず考えなくてはならないのである。日頃私が事務局員に必要性を説いている事務職員の企画力、構想力を発揮する舞台がこの時計台記念館にある。

「京大総合案内」の設置

京大では、一昨年3月の法人化に関する調査協力者会議の最終報告を受け、法人化に向けていくつかのWGを設けてこの1年半議論を続けてきたが、歯に衣を着せずに言えば、全体的に総論的議論が多く、肝腎の重要点に関しては両論併記の結論でお茶を濁すことが少なくなかったように思う。もうリーダーシップとは何か、ボトム・アップ的意思決定との調和といったような総論を巡って延々と議論を続けている余裕はない。

私のこれまでの経験からして、組織、制度はどんなに精緻に組み立てても、実際にこれを運用する人の考えによって相当大きく変わるのである。このことは、同じ憲法のもとでの内閣制度でも、総理大臣の考え、スタイルによって中曽根総理のようにトップ・ダウンにもなればどなたとは言わないが官僚主導のリーダーシップに欠けた統治スタイルにもなるのと同じである。

時計台記念館の運営には、総務課に新設した時計台記念館企画掛が当たるが、時計台のオープンとともにこの掛は館の1階、京大サロンの脇に設けられた事務室に移転する。この掛は、時計台の維持管理、施設利用受付などの管理業務とともに、新たに設けられる「時計台記念館企画委員会」を中心に時計台記念館で行う大学主催の各種事業の企画・実施のサポートを行うことになっている。

今回、この掛に大学情報課の大学情報掛(2名)を合流させて、「大学総合案内」を設けることにした。「大学総合案内」は、京大に関するどんな問い合わせにも速やかに対応することを目標にしている。

実はこれまでも、京大に関するありとあらゆる質問や問い合わせ、時によっては京大に対するクレームなどが毎日総務課や大学情報課などに数多く寄せられている。新聞で見た京大発ベンチャーの連絡先の問い合わせ、京大に留学したいのだがこんな専攻はあるかという質問、名誉教授の動静についての問い合わせ、京大主催の講演会の場所を教えてほしいという要望、京大の先生とこんなテーマで共同研究をしたいのだがどこに申し込んでいいか分からないという相談等々日々対応している質問、相談は数え切れない。

京大ホームページが充実され、学外向け広報誌、英文広報誌が発行されるのに比例して、京大に関する問い合わせの件数も増えつつあり、法人化とともに京大の動向に関心が集まっている状況から考えて今後さらに多くの問い合わせが寄せられるようになると思われる。

京大の活動は教育・研究活動、医療活動、社会貢献活動など多岐にわたっているが、原子炉を稼働させている熊取の原子炉実験所、多くのサルを飼育する犬山の霊長類研究所、医療過誤に関する訴訟を提起されている附属病院などを挙げるまでもなく、大学の様々な活動を円滑に行っていくためには、京大が何を目指し、どのような活動を行っているかを不断に社会に説明していくことが求められる。日頃から京大の活動について広報し、理解を求めていくことが必要なのは言うまでもないが、今回のように「総合案内」を設けて京大に寄せられる日々の問い合わせに誠実かつスピーディに応えていくことも劣らず重要である。大学に寄せられる問い合わせが、いわゆる「たらい回し」にならないよう各部局の教職員の積極的な協力をお願いしたい。

受験生集めを念頭に置いた広告・宣伝という意味での広報活動は、少なくとも国内ではすでに高いブランド・イメージが確立している京大にはあまり必要ではないと思われる。しかし、資金の大半を国民の税金で賄われている国立大学として、京大に関する情報を適時的確に社会に発信し、社会への説明責任を果たしていくことこそ真の意味での社会との適切な関係の維持、すなわちPublic Relations (PR)活動と言うことができよう。

いずれにしても、このような大学総合案内の設置は、おそらく国立大学を通じて初めての試みである。また、大学総合案内こそ京大と社会、国民をつなぐ架け橋、要に位置するのであり、社会が京大に何を期待し、どのような疑問をもっているかが良く分かるし、大学全体の活動を見渡すことのできる。私としては、ここで受けた問い合わせ、質問、クレームなどを、1週間ないし1ヶ月単位で内容を整理して、総長を始めとする大学トップに伝え、大学運営の参考にしてもらおうと考えている。「大学総合案内」は、社会からの生の声を感じるいわば「知覚器官」、「センサー」であるとともに、大学の考えていること、行っていることを対外的に説明する「情報発信基地」でもあるのである。

潤いとゆとりの演出

改修工事の結果、まるで「伏魔殿」のように暗く、近寄りがたかった古い時計台の建物が見事に再生したが、工事が一応終わった段階で内部を見てみると、どうも殺風景で仕方がない。京大サロン、会議室、名誉教授室など人々が憩い、語らい、議論をする場にしては潤いというかゆとりが感じられない。確かにしみ一つない廊下や会議室などの白壁は美しいが、それだけでは何となく物足りない。また、天井の高い廊下やロビーなどは格調が高いがやはり冷たい感じがする。何とかしなくてはいけない。

image

まず絵画をポイント、ポイントに飾って潤いを演出しようと考え、絵画の購入を検討したが、予算もないし、名の売れた作家の高額な絵画を飾るのでは盗難や汚損の心配をしなくてはならない。また、有名作家の絵画を飾るのは京大にはふさわしくないように思えた。色々考えた末、名誉教授室には名誉教授で絵心のある方にこれまで描かれたものを寄贈していただこう、京大サロンや会議室には、京大美術部の学生や京都市内の美術系大学の学生の絵を飾ろうということにした。関係者と色々と折衝してもらった結果、名誉教授室には現福井大学学長の児嶋眞平名誉教授の描かれた絵画2点を寄贈していただくことになった。また、会議室には京大美術部の学生の絵画2点を、京大サロンには、京都市美術系大学学生絵画展で目に付いた絵画1点を作者(京都市立芸術大学大学院2回生中岡真珠美さん)から譲り受け、これを飾ることになった。いずれも寄贈である。

残りの会議室には京大所蔵の絵画を数点飾ることにしているが、まだまだ数が足りないし、絵画以外にも例えば京大サロンには書籍ラックの上に置物や写真や陶磁器などを飾りたい。これらは教職員の方々からの寄付や教職員、学生の作品などを徐々に集めていきたいと考えている。1階のフォワイエや2階のロビーなどには、ちょっとくつろげる椅子とテーブル、ライト・スタンドを配しているが、こうしたスペースにも観葉植物や絵画、タピストリーなど潤いとくつろぎを演出するいろいろな小道具を置きたいがこれもこれからの課題である。

フランス料理店「ラ・トゥール」

時計台記念館1階には、フランス料理店がお目見えする。百万遍で40年以上にわたってフランス料理店を営み、京都市内で「ボンボン・カフェ」や「ラ・シゴーニュ」、文部省共済組合の東京フォーレスト本郷(旧本郷会館)内のレストランを経営している(株)円居(まどい)が開く「ラ・トゥール」である。

個室を備えた約60席の本格的フランス料理店で、値段は正門脇の「カンフォーラ」に比べると高めであるが、ゆったりとした雰囲気でさらに質の高い料理を味わうことができるはずである。入学、卒業、結婚、誕生日、結婚記念日などのお祝いや学外からの来訪者へのおもてなしなどに最適な場所であるが、そうでなくてもランチや週末の家族や友人などとのくつろいだ会食にも気楽に使っていただけたらと考えている。正門脇の「カンフォーラ」と同様学外の利用も大歓迎で、教職員の方にもこれから積極的にPRしていただければと考えている。

image

京大主催の講演会を聞いて、京大グッズや京大の先生の書いた本をお土産に買って、展示ホールで京大の歴史を学び、帰りにラ・トウールで食事・・ということになればいいと思う。総合博物館も近いし、観光客や修学旅行生も大歓迎である。銀閣寺観光などと組み合わせればいいコースができるし、先生も生徒が京大に行ってきたと言えばほめてくれるだろう。既に総合博物館とカンフォーラのパンフレット、京大マップをセットにした資料を京都府と京都市にお願いして、観光協会に置いていただいているが、これからは時計台記念館のパンフレットも置いてもらおう。

百年記念ホール

時計台記念館には500席をもつ百年記念ホールができる。ここでは主として学術講演会、シンポジウムなどを開くことを想定した設計になっているが、できれば京大交響楽団、合唱団、吹奏楽団、音楽研究会などにお願いして教職員や学生、一般市民を対象にした音楽会が開けないかと考えている。そのために苦しい予算をやりくりしてヤマハ製のかなりグレードの高いコンサート・ピアノを購入してある。

音響効果、音響設備は必ずしもこうした音楽会を想定した造りになっていないが、それでもこれだけのホールを京大交響楽団を始めとする京大生の音楽の発表の場にしない手はないと思う。是非企画委員会で何かいい企画、事業を考えていただきたいと思う。

時計台記念館は12月13日にオープニング・セレモニーを行い、15日(月曜)から正式に業務を開始する。是非一度、中をのぞいていただき、感想やご意見を寄せてください。