局長ノート(2004年3月17日)

局長ノート(2004年3月17日)

本間 政雄

法人化後の運営体制、役員の人選、取引銀行などが決まる

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平成15年6月3日国際交流会館にて

長い間準備を進めてきた法人化が間近に迫ってきた。思えば長い道のりであった。2001年秋に法人化準備のWGが発足し、翌年春に報告書を発表した。ほぼ同時期に、文部科学省の国立大学の法人化に関する調査協力者会議の報告書も公にされ、これを受けて京大でも将来像、管理・運営組織、人事制度、財務、病院などに関するWGが組織された。それ以来2年近くの歳月が流れ、各WGの審議も最終段階にさしかかっている。

法人化後の京大の運営体制に関しては、3月9日の評議会で理事7名とそれぞれの役割分担も決まり、文部科学大臣が指名する監事2名の人選も既に文部科学省に推薦してある。4月1日からの本部事務組織も、企画調整官を振り替えて企画部を設置するとともに、人事部を新設、さらに情報化推進官を振り替えて情報環境部、施設部を施設・環境部、研究協力部を研究・国際部に改称することも評議会で了承されている。部課長人事も京大の自主性を基本としながらも、法人への過渡期にあることを踏まえて、承継幹部職員を中心に一部ポストに内部登用を織り込んだ人事異動の準備が進みつつある。

本部事務局と事務局長は廃止することに決まったが、新たに「事務本部」を設け、総長が理事の一人を「事務総合調整」担当理事に指名することになった。事務局、事務局長の廃止は、ある意味ではこれまで数十年にわたる事務局のあり方、事務局長のあり方に対する批判、反発の現れと考えることができ、仕方がない面もある。しかし理事が各部を担当する体制では、ただでさえ「縦割り」で動いている京大の事務組織がさらにバラバラになるおそれがある。私は、管理・運営組織のWGで縦割りの弊害と調整役の必要性を強く訴え、最終的に「事務総合調整」担当理事を置くことになったものである。事務合理化、職員の再配置、電子事務局の構築など法人化後の事務合理化・効率化に必要なあらゆることがいわゆる「横」の調整役を必要としており、こういう結果になって良かったと考えている。

結果的に「事務総合調整担当」理事には私が就くことになり、事務本部のとりまとめと大学の事務組織全般の総合調整をしっかり行っていきたいと思う。なお、私は「総務・人事・広報担当」理事にも指名されたので、全体を良く見回して各理事がそれぞれの持ち味を出しながら総長を補佐し、京大の発展のために力を発揮できるよう環境を整えていきたいと考えている。もちろん、人事、広報も大学の将来を左右する重要な分野であり、これまでのように全力で取り組んでいきたい。

さらに、取引銀行も三井住友銀行に決まり、法定の外部監査人も内定しつつある。損害保険も、国立大学協会と損保会社で新規に国立大学向けに開発した総合保険が予想外の低値の保険料(国立大学全体で8億円弱、当初は15億、30億円という予想もあった)に決まったことを受け、京大でも順調に損害保険の選定が進んでいる。

学内の各WGはもちろん毎週月曜午後に開かれる総長補佐会をはじめ、隔週ごとに開かれる部局長会議と評議会にほとんど欠かさず出席し、(時に激しい)討議に参加し、事務レベルでの準備の陣頭指揮を執ってきた者としてようやくここまで来たか、という思いでいっぱいである。

法人化はこれからが始まり・・先送りされた課題の検討

京大は4月1日に法人化されるが、法人化のプロセスはこれで終わりではなく実はこれからが始まりである。何故か?それは、一つには、少なからぬ課題が法人化後の検討、実施に持ち越されたからである。例えば、教員人事制度のあり方とりわけ教員の業績評価の導入、任期制の拡大、兼業・兼職規制の見直し等の課題、事務職員などの全学的な再配置と事務組織の見直し・再編成という課題、「全学支援機構」と総称される部局横断的なバーチャルな組織の設置(労働・安全衛生、情報基盤、国際交流など)といった課題である。

これらの課題は、検討のための十分な時間がないからという理由で先送りになっているが、法人化後担当理事を決めて引き続き検討を進めていかなければならない。特に教員の人事制度改革は、今般の非公務員化とセットになった法人化の狙いの最大のものの一つであり、より流動性の高い、適切な評価システムに基づいた競争原理の導入をめざす必要がある。

組織、制度をいかに運用するかが重要

法人化の本番が法人化後に来るという第二の理由は、法人を支える運営組織、体制は形だけ、いわば紙の上でできただけであり、これがうまく機能するかどうかは理事や部課長、事務長などのマネジメント・スタッフの度量と幅広い関係者の理解と協力にかかっているからである。別の言い方をすればこのような組織、体制が適切に機能し、所期の成果を挙げられるかどうかは、その組織、体制の運用に関わる人々の意識に大きくかかっているからである。とりわけ京大の場合は、法定の経営協議会(24名)、教育研究評議会(67名)に加えて従来の部局長会議を残した上でメンバーを拡大し、さらに部局長会議の下に新たに「研究科長部会」を設けることになっている。現在の総長補佐会、部局長会議、評議会という意思決定プロセスと比べるとよほど複雑かつ時間のかかるプロセスになるのである。従って、これら多くの会議体の機能、役割をよく考えて運用していかないと会議ばかりが「踊って」結局意味のあることは何も決まらず、物事を決めるのにこれまでより多くの時間とエネルギーがかかることになりかねない。

さらに、京大では入試や国際交流などに関する全学委員会と呼ばれる会議体が60を超えており、そのあり方が問題になる。目下既存の全学委員会の見直しを行われており、役割を終えたいくつかの委員会は廃止される見込みであるが、新たに設置される財務委員会のようなものもあり、全体の数としては大きくは減らないであろう。となると、これらの委員会をより効率的、効果的に運営することが重要になる。そして会議に参加する部局長や一般教員の貴重な時間を少しでも本来の役割である教育・研究・医療に振り向けられるようにするとともに、準備に当たる職員の仕事を減らさなければならない。まず各委員会の役割を、合意形成のための調整を行うためのものか、ある課題についての解決策の企画が目的か、何らかの決定を行うためのものか整理しなければならない。その上で、必要に応じて委員会のメンバーの数を減らすこと、会議の頻度・回数を減らすこと、会議そのものの時間を減らすことを検討しなければならない。

いずれにしても、全学委員会には企画委員会や専門委員会、WGなど様々な名前で副次的な会議体が設けられるのが常であり、全学に60の委員会があるとすれば、専門委員会などを含めて実際には200ほどの会議が動いていることになる。各部局(学部・研究科15,研究所13、病院、図書館など合計30ほど)にはほぼ同じ数の委員会があると考えられるので、全学では約2千もの委員会が存在することになる。2千の委員会が年に2回会議を開くと年間で延べ4千回の会議が行われることになり、それぞれの会議に10名の教員と事務職員が各2時間参加するとすると、全体で実に8万時間・人という膨大な時間と労力が会議に費やされていることになる。

それでもこうした会議が実質的な討議、意見交換が行われ、大学の運営に関わることや教育・研究・医療の方向について実りある決定が行われているのなら意味があるが、現状は必ずしもそうとは言いがたい。むしろ、あまり意味のない資料説明や議事録の確認や資料よく読んでくればすぐ分かることを質問したり、総論的な自説を長々と披瀝したりということに費やされている場合が多い。会議の時間管理も甘い。私が身を置いた霞ヶ関の会議も民間企業の会議も、「時間は有限の資源」という考えが徹底しており、大学のように会議を開く際、始まりの時間だけを明示して終わりの時間を示さないというようなことはありえない。どんな会議にしろ、どのような議題をどの位の時間で議論をし、結論をまとめるかを予め考え、時間設定・時間管理を行うのが常識である。今後、委員会の数を減らせないとなると、会議自体を効率的に進めるしか手はない。

効率的・効果的な会議運営は委員長・委員・担当部課の共同責任

そのためには、会議招集者が会議の目的を明確に設定し、落としどころを見定めて会議の運営を行う必要があるし、これを支える担当部課も事務レベルで決定できる範囲のことは結論を出した上でグレー・ソーンに属することのみ限定的に会議に諮り、資料を準備することが必要であるし、会議に参加する教職員も細部にこだわるのではなく本質的な部分について意見を述べるようにするとともに、効率的かつスピーディな会議運営に協力するようにしなければならない。議事録も可能な限り簡略にし、資料もできるだけ早めに電子媒体を利用して配布し、可能であればメールで意見をもらった上で電子的に承認を得る、というような合理化を行う必要がある。教職員の時間給が平均2千円とすると、委員10名が2時間会議に参加し、5名の職員が4~5時間かけて資料を準備し、議事録をつくるとすると、1回の会議の直接のコストは約10万円、年間4千回の会議を開くだけで4億円(!)のコストが必要ということになる。これに教授会や役員会や経営協議会、教育研究評議会を加えれば、いかに多くの時間とコストが会議に使われているか想像がつくであろう。

マネジメント・スタッフと事務職員の力量向上

法人化の前提となっている自主的・自律的かつ自己責任に基づく大学運営を実現するためには、学長・理事を始めとするトップ・マネジメントと現場の教育・研究・医療を支える事務職員の資質を高めることが絶対条件である。

事務職員に関しては、これまで監査法人や専門家の支援を受けながら、法人化の意義や法人化後の財務などについての研修を行ってきた。しかし、理事に関しては一部が国立学校財務センターの主催した、マネジメント・セミナー(2日間)に参加した程度であり、それも法人化準備に関する情報交換や文部科学省による説明を聞くのが中心であった。しかし、財務にしろ施設マネジメントにしろ人事・労務、情報セキュリティ、病院経営にしろ責任の伴う仕事をしていくためには、相当専門的な知識が必要である。

事務職員にしても、それぞれのレベルで従来とは異なった知識が求められる場合が多い。4月1日から新たに社団法人としてスタートする国立大学協会では、学長、理事、事務局長などのトップ・マネジメントを対象にした研修事業を行うことにしている。協会の全国8つの支部(近畿ブロックもそのうちの一つ)では、ブロックの実情に応じて必要な事業を行うことになっているが、部課長以下の職員を対象にした実務研修も当然主要な事業になるであろう。

(財)大学コンソーシアム京都も教職員を対象にした研修事業を試行しており、16年度以降本格的な事業展開を検討している。さらに、国立学校財務・経営センターも、マネジメント・セミナーを計画している。法人化後は、こうした様々な機会を利用し、有機的に組み合わせて、関係教職員の資質を高めていく必要がある。もちろん、自主的な資格取得、自己啓発、大学・大学院進学も歓迎である。企業、私立大学、自治体、政府機関などとの幅広い人事交流を通じて、OJTで経験を積ませていくことも必須である。

いずれにしても、法人化の目的は、自主的・自律的・自己責任原則に基いて、社会的説明責任を果たしうる効率的かつ効果的な大学運営を実現し、質の高い教育・研究・医療を実現することである。法人化直前のこの時期、あらためて職員一人一人の意識改革を望みたい。