局長ノート(2003年11月7日)

局長ノート(2003年11月7日)

本間 政雄

大学の変化と大学職員に求められるもの

image

法人化まで半年をきり、9月26・27日の選挙で次期総長も決まり、法人化に向けての準備も本格化している。総論、原則論の段階から、具体的な制度設計に向けての地に足のついた現実的な具体論の段階に移っていくことを期待したい。事務局も法人化に際して、急激な組織変更や制度変更を最小必要限度に止めて、着実に新制度への移行を果たし、徐々にしかし着実に法人化の求める社会的説明責任の果たせる、効率的・効果的な業務遂行ができる組織、体制への転換を図っていくことが望ましいと思う。

大学の変化、大学を取り巻く環境の変化

ところで法人化後の我々事務職員のあり方を考えるとき、何といっても大学の内的変化と大学を取り巻く環境の最近の劇的な変化をまず認識する必要がある。いったい大学の何が変わったのであろうか?

  • 大学の基本的使命である学術研究の高度化、大型化、専門分化、国際化、情報化、学際化の進行といった質的変化
  • 教育内容の膨張と専門分化、国際化(情報の受容から情報発信型の教育へ)の進行、情報リテラシー教育の必要性の台頭、学生の能力・アスピレーション・社会的文化的バックグラウンドの多様化、情報メディアの多様化など教育の質的変化
  • 大学維持コストの増加・・国立大学・研究所などの維持コストは1960年の1600億から現在2兆8000億円に増加、今後さらに増加が見込まれること
  • 「知の世紀」と言われる21世紀、大学に期待される役割の変化・・「象牙の塔」「孤高の学府」としての大学から「新たな産業シーズの創造拠点」「人材育成拠点」としての大学へ
  • 行財政改革、社会的説明責任、競争原理、大学評価など「構造改革」の潮流・・国立大学の統合再編、国立大学法人化による運営改善、効率化と費用対効果の改善、競争的資金の拡大、大学評価体制の拡充などが求められるようになったこと
  • 18歳人口の急減、過去10年余りの間の公・私立大学の増加、短期大学の減少、大学院の拡充、専門職大学院制度の導入といった外部環境の変化が、大学の多様化・個性化の趨勢、学生確保競争、職業人・社会人学生と留学生の増加に拍車をかけていること

国立大学のあるべき姿と事務職員の役割

このように大学は今、内と外から大きな変化にさらされている。教育、研究、医療活動を支える大学職員の仕事も、これまでのように実務を通じて得てきた知識、技術、経験を頼りにこなしていくことができなくなっている。図書系の仕事であれば、電子ジャーナル、インターネット、知的財産権、情報セキュリティなどに関する知識なしにすませることはもはやできない。技術系の職員が扱う計測、分析機器も従来に比べ、大型化、高度化が著しく、常に操作法に習熟するため研修を怠ることができない。また、これまでは何十年と京大にいても日常業務を通じて外国人と話したりすることなどほとんどなかったが、留学生が1,200名を越え、外国人研究者が頻繁に京大を訪ねて来たり、COE研究費を獲得して海外に拠点をもつなどという時代になってみると、たとえ片言でも英語なしですますことは難しい。

一方、国立大学の運営は非効率であるとして法人化をはじめ、行財政改革が厳しく求められるようになっている。このような変化の中で京大をはじめとする国立大学は、自らの果たすべき使命、目標を改めて見直し、その実現のために限られた人、金、物、スペースなどの資源を効率的かつ効果的に、そして柔軟に活用していかなければならない。そうでなければ、京都大学という歴史と伝統を誇る大学でも、国立大学を支える社会や納税者の理解は得られず、中長期的に見ればその存在基盤すら脅かされかねないと思う。

このような状況の中で事務職員が果たすべき役割は何であろうか?そして期待される役割を果たすにはこれからどのような資質や能力が必要になるのであろうか?

このことを考える際、大学職員の仕事を内容によって分けて考える必要がある。私の考えでは、大学職員の業務は、

(1)大学という組織体(具体的には人、物、金、スペースという有限の資源)を、目標達成に向って効率的、効果的にマネジメントする業務(総務、人事・労務、財務・経理、施設、知財管理、法務・訟務、監査、広報・渉外など)、
(2)教育・研究・医療の現場で教員を支援する業務(教務、入試、履修・就職支援、研究推進・研究補助、国際交流、留学生受け入れ・支援、実験実習支援、計測・分析機器管理、施設管理、産官学連携、医事、図書・学術資料など)

に大別される。

(1)のマネジメント業務は、大学に限らず企業や自治体などどんな組織にも共通に必要な業務である。大学本部で、大学全体の人の管理(例えば、職員の採用、研修、キャリア・パスの管理などに関する全体の方針の策定、運用)を行う場合もあろうし、学部や研究所などの現場で日々の服務管理に従事する場合もあろうが、それぞれのレベルで人を適正かつ効率的・効果的に業務に従事させるという点では基本的には同じ性格を持つ仕事である。さらに、大学としての意思決定を支えるデータ収集、分析、評価、調査及びこれらに基づく政策選択肢の企画・立案業務、組織のリスク・マネジメントとしての法務・訴訟対応業務、内部・外部監査支援業務、広報・情報発信、対外関係にかかわる業務などがある。これらはいわば、大学という組織の中枢である学長・役員などの意思決定を直接支えるとともに、大学全体に関わる広報、法務、監査などの業務を行うものである。

他方、(2)の教育・研究・医療支援業務は、教育・研究・医療の現場に密着した業務であり、それぞれの分野でこれまでより一層高い専門性が求められるようになっている。しかし、大学職員に求められるものはそれだけではなく、教員の仕事に対する理解と熱意そしてそこから生まれる柔軟性、機動性である。現場では、規則を杓子定規に守ることより(それはそれで大切であるが)現場のニーズをいかにして理解し、それが実現できるように柔軟に考え、タイムリーに実施に移すことができるかの方が重要である。規則、規定を厳密に適用して、あれもできません、これも無理ですというのでなく(その方が楽であるが)、教育、研究、医療の現場から新しいニーズを汲み取り、それをいかにして実現するかを教員と一緒になって考えることのできる柔軟な思考・発想が求められるのである。

大学職員に必要な仕事に対する熱意と専門性

以上を踏まえて、これからの事務職員に求められる資質・能力を考えてみると、仕事に対する高い意欲は当然として、マネジメント業務では、それぞれの分野の専門知識と経験が必要であろうし、できればマネジメントに関する修士号や、ポストによっては公認会計士、労務管理士、社会保険労務士などの資格も望ましい。また、こうしたマネジメント業務は関連部局との調整が必要になる事項が多く、その意味で対外折衝能力や人との関係を維持・発展させる力すなわち「人間関係力」が必要とされると思う。

次に、組織の意思決定を支える評価、分析、調査、企画・立案にかかわる業務は、地味ではあるが組織の行方、将来を左右しかねない重要分野であり、修士号レベル程度の課題設定能力、企画力が必要ではないかと考えられる。法務・訴訟対応業務では、法律分野での修士号、ロー・スクール卒業資格を持つことが求められるようになろう。

教育・研究・医療支援業務では、情報、国際交流、学生相談、入試、病院経営など上に挙げたような分野での専門知識、職務経験に加え、関連分野での修士号や、臨床心理士、情報処理技術者などの資格、実用英語検定1級、準1級などの試験合格が必要になる業務も少なくないであろう。この業務では、教員を始め学生、留学生、患者と話し合い、こうした人たちの意向を十分に理解して柔軟に業務を行うことが求められるので、対人関係をスムースに運ぶことのできる能力が望ましいと思う。また、顧客重視型のサービス業務であることを認識した柔軟で血の通った対応をできる能力、資質も重要である。

一人一人にできることをできることから

このように書いてくると、とても自分には無理です、無理して修士号なんかとっても仕事で生かす場はありません、子育てや家事など生活に忙しくてそんな余裕はありません、大学院に行こうにも経済的余裕も時間的余裕もありません、という声が聞こえてきそうである。

確かに現実はその通りであり、求められる資格を取ったり大学院に通うことは誰にもできることではない。しかし、1歩でも2歩でも現実から脱却し前に進まなければ何の進歩もない。否が応でも大学は変わり、大学を取り巻く環境は厳しくなり、業務に求められる仕事の質は高くなり、複雑になる。現実に民間企業では、そうした環境の激変にさらされ、生き残るために組織としても組織を構成する社員一人一人が変化への対応に努めている。そうでない企業は、変化についていけず取り残され、いつかは企業自体が成り立たなくなる。組織としても、新たな財務会計システムの導入や法人化後のリスク・マネジメント、情報セキュリティ対策など生き残りをかけて準備をし、実施に移しつつある。

大学職員の立場でも、今後の職場の変化、あるべき仕事の姿、その中での自分のキャリア・プランというものを改めて考えてささやかであっても自己啓発を行うなり、色々な機会を捉えて能力を高めるための研修に参加すべきではないかと思う。他機関への出向にも積極的に手を挙げるべきではないかと思う。

いつの時代でも、そして法人化後は特にそうであるが、組織は個人で成り立っており、一人一人の意欲、能力、資質、経験が組織を支えている。法人化を展望して、採用のあり方からキャリア・パスの見直し・改善、研修の抜本的見直し、自己啓発に対するインセンティブの付与、人事交流の多様化などを進めなければならないと考えている。

法人化に向けてのいろいろなWGに参加して、事務局・大学職員の立場から積極的に発言しているが、正直言って教員の職員に対する評価は非常に厳しいものがある。柔軟性がない、現場では情報化や国際化が進み、職員にもそういう方面の知識が求められるのになかなか勉強してくれない、コスト意識がない、新しいことに対応しようという気がない・・との批判である。そして、必ず言われるのは外部にアウトソーシングしたほうが効率がいい、公務員制度からはなれて職員採用は自由にできるようになるのだから、実力本位で企業や私学から優秀な人材を採用すればいい、といったことである。こうした批判がすべて正しいとはいえないし、誤解や狭い経験だけで全体を批判していることもあろう。職員の多くは地道にまじめに努力し、自己啓発を行っていることも分かっているつもりである。実際、今年開学した大阪市立大学の創造都市研究科に自腹を切って3名の京大職員が入学し、マネジメントなどの勉強をしているのも知っている。しかし、大学を取り巻く内外の環境の変化は急激で、大幅である。これまで以上に専門性を高めていかないと、こうした変化についていくことは難しいと思う。

私事であるが、私の家内は末っ子が3歳で幼稚園の年少に入った40歳のとき、筑波にある大学4年に編入し、3人の子供を育てながら片道2時間半かけて週3回大学に通った。大学を卒業した後、都内の大学院の研究生になり、特別養護老人ホームでボランティア活動をしていた。そのときの経験で、特養ホームの入居者がしばしば人権を無視された扱いを受けたり、6人部屋男女雑居など生活の質とは程遠い生活を強いられている状況にショックを受け、以来NPOを立ち上げて特養ホームの改善に向けて活動を行っている。身内の話で恐縮であるが、しかし自己啓発を始めるのに遅いということは決してないし、自らに少しでも高いハードルを課せば人生は1歩前に進むことを示すささやかな例と思う。