脳卒中後には、手足などに長く続く痛みが生じることがあります。通常は脳の損傷部位とは反対側に現れますが、まれに両側へ広がります。なぜ脳卒中後に痛みが起こり、なぜ片側にとどまらず両側へ広がるのか、その仕組みは分かっていませんでした。
根山広行 医学研究科特定研究員、杉浦悠毅 同特定准教授らの研究グループは、この謎に、生理活性脂質リゾホスファチジン酸(LPA)、脳内免疫細胞ミクログリア、痛みに関わるプロスタグランジンE2(PGE2)が連動して関わることを、イメージング質量分析などにより本研究で初めて画像として捉えました。
研究グループは、マウスの虚血・再灌流モデルを解析し、LPAが損傷部位だけでなく、左右の脳をつなぐ脳梁や反対側の脳領域でも増えることを可視化しました。さらに、PGE2が反対側の大脳皮質で増加することも確認しました。LPAの増加部位ではミクログリアも活性化しており、LPAがミクログリアを動かして炎症の信号を片側から反対側へ広げる可能性が示されました。
そこで脳梁へLPAを少量投与したところ、投与したLPAそのものが遠くまで広がったのではなく、体内由来のLPAが脳梁内で新たに増える連鎖反応が起こりました。この反応に沿ってミクログリアが連続的に活性化し、反対側の脳でPGE2が増える様子を画像として取得しました。さらに、ミクログリア活性化やLPA産生を抑える薬剤により、この反応と脳卒中後の両側性疼痛が抑制されました。本研究は、脳卒中後の痛みが両側へ広がる仕組みを示すとともに、生理活性分子の働きを組織内の「場所」と結びつけて理解するイメージング質量分析研究の意義を示す成果です。
本研究成果は、2026年5月20日に、国際学術誌「Communications Biology」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「本研究で最も印象的だったのは、脳内で目に見えなかった炎症の流れを、LPAやPGE2という分子の画像として捉えられた点です。脳卒中後の痛みがなぜまれに両側へ広がるのかという問いに対し、LPA、ミクログリア、脳梁、PGE2が連動する様子を一つの流れとして示せたことに大きな意義があると考えています。
特に、標識LPAを用いた実験により、投与したLPAそのものの拡散ではなく、体内由来のLPAが新たに増える様子を可視化できました。薬理学的な実験とイメージング質量分析を組み合わせることで、生体内で働く生理活性分子の動きを『どこで起きるか』とともに理解できた点は、今後の病態解析や創薬研究にもつながると感じています。」(根山広行)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s42003-026-10261-5
【書誌情報】
Hiroyuki Neyama, Ryoma Kizu, Rae Maeda, Hiroshi Ueda, Yuki Sugiura (2026). Lysophosphatidic acid drives to mirror-image pain via corpus callosum-mediated propagation of inflammatory responses. Communications Biology.