地球温暖化に伴う超高層大気の収縮をX線天文衛星で解明-逆転の発想!捨てられた天体観測データを大気観測に転用-

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 榎戸輝揚 理学研究科准教授(兼:理化学研究所チームリーダー)、勝田哲 埼玉大学准教授、田代信 同教授、寺田幸功 同准教授、佐藤浩介 同准教授、森浩二 宮崎大学教授、望月優子 理化学研究所室長、中島基樹 日本大学専任講師らの研究グループは、X線天文衛星を用いて、中間圏・下部熱圏(高度70-115 km)領域の大気密度の長期変動の測定に成功し、大気が収縮していることを明らかにしました。

 地球温暖化に伴い、高度20km以上の上空大気は寒冷化し、その結果収縮すると考えられています。この大気収縮は理論的には半世紀以上前に示されていましたが、それを実証する数十年スケールの観測データは乏しく、特に収縮が最も激しいと予測される中間圏・下部熱圏領域においてはほとんど皆無でした。本研究では、日米5機のX線天文衛星が1994年から2022年にかけて取得した観測データの中から、地球大気の影響を受けたタイミングに着目し、大気密度の長期変動を調査しました。その結果、高度70-115kmの大気は1年に約0.5%のペースで希薄化していることが明らかになりました。これは独自アプローチによる、過去になく高い信頼度の結果です。この密度低下ペースは、温室効果ガスの増加を考慮した最先端の大気シミュレーションの予測と整合していました。本研究で開拓した手法は、将来にわたって超高層大気をモニターする貴重な手段になります。それにより、地球温暖化の理解の深化や、人工衛星のライフタイムの推定精度向上など、社会と経済活動に貢献することが期待されます。

 本研究成果は、2023年2月21日に、地球物理学専門誌「Journal of Geophysical Research: Space Physics」に掲載されました。

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天体の地球大気掩蔽の様子。人工衛星は反時計回り(東向き)に進み、地球観測から天体観測に遷移する一瞬(30秒程度)、大気掩蔽で天体のX線強度が減衰し、それにより大気密度が測定できる。
研究者のコメント

「これまで宇宙のはるか遠方のブラックホールや中性子星を観測していた天文衛星を使って、地球の大気を観測するという逆転の発想の研究です。これにより、地球温暖化に伴う超高層大気の収縮の観測に成功しました。もうすぐ、最新のX線天文衛星XRISMが打ち上がり、X線天文学も新しいステージに進むと世界中が期待しています。」(榎戸輝揚)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1029/2022JA030797
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/279487
【書誌情報】
Satoru Katsuda, Teruaki Enoto, Andrea N. Lommen, Koji Mori, Yuko Motizuki, Motoki Nakajima, Nathaniel C. Ruhl, Kosuke Sato, Gunter Stober, Makoto S. Tashiro, Yukikatsu Terada, Kent S. Wood (2023). Long-Term Density Trend in the Mesosphere and Lower Thermosphere From Occultations of the Crab Nebula With X-Ray Astronomy Satellites. Journal of Geophysical Research: Space Physics, 128(2):e2022JA030797.