ネットワーク構造が作る細胞周期の独立制御―数学が予測した制御モジュールの定量的実証

ターゲット
公開日

研究者情報

概要

 細胞が生きるためには、細胞内で様々な機能を持った反応が働き、それぞれが適切に制御される必要があります。ある反応の生成物が別の反応の材料になることで、細胞内の全ての反応が連結したひとつのネットワークとなることが知られています。では、ひとつにつながった動的システムで、異なる機能を担う異なる物質を、それぞれ個別に制御することは果たして可能でしょうか?

 京都大学医生物学研究所の山内悠平特定助教、望月敦史教授らはこれまでに、反応ネットワークの一部がある数式を満たすと「緩衝構造」となり、他の部分から独立して制御される「モジュール性」を獲得することを、数学理論によって示してきました。今回、東京科学大学地球生命研究所の杉山博紀特任助教、京都大学生命科学研究科の後藤祐平准教授、青木一洋教授との共同研究により、細胞のライフステージを支配する「細胞周期システム」に、実際にこの緩衝構造が存在し、重要な役割を果たしていることを実証しました。細胞周期システムの解析から、細胞周期の切り替わりを管理する二種のタンパク質複合体が、異なる緩衝構造に含まれることで、互いに独立に制御されている可能性を示しました。最新の定量解析により、確かに一方のタンパク質複合体が他方に対して独立に振る舞うことを実証しました。さらに理論予測と実験検証の比較により、未知の反応を理論的に予測し、検証実験によりその実在を証明しました。

 本研究により、数学的な予測であった緩衝構造が実際に重要な生物機能を果たしていることが示され、細胞周期システムの理解が更新されました。さらには理論と実験から、未知の情報を必要条件として得る、新しいシステム生物学の方法が提案されました。

 本研究成果は、2026年9月23日に国際学術誌「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」にオンライン掲載されました。

画像
2609-main-Mochizuki.jpg
研究全体の概念図

研究者のコメント

「生命現象は複雑で、個々の分子をひとつずつ調べるだけでは全体の仕組みを理解することは困難です。そのため、生命システム全体を理論的に捉えることが重要ですが、それは容易ではありません。本研究では、ネットワークの構造だけから生命現象を理解する理論を用いて、細胞周期の制御原理を明らかにしました。また、その理論を検証するための新しい計測技術の開発にも携わりました。理論と実験の両面からひとつの課題に取り組み、成果につながったことを大変うれしく思います。」(山内悠平)

「これまでに複雑なシステムのダイナミクスをネットワーク情報から理解する研究に長期的に取り組んできました。私たちが構造理論と呼んでいるモデルフリー理論を作ることに加えて、それらを用いて実際の生命現象を解明し、生物学に貢献することを目標としてきました。今回の研究により、目標を理想的な形でかなえることができました。」(望月敦史)