市川小夏 農学研究科修士課程学生(現:同博士後期課程学生)、足立大宜 同特定研究員、北隅優希 同准教授、白井理 同教授、宋和慶盛 同助教、宮田知子 大阪大学特任准教授、牧野文信 同招へい准教授、難波啓一 同特任教授らの共同研究グループは、Gluconobacter oxydansという酢酸菌由来の膜結合型アルコール脱水素酵素(ADH)の膜結合領域を同定し、界面活性剤フリーのADH可溶化変異体を開発しました。また、本変異体の電極触媒活性が野生型組み換えADH(rADH)の約2倍程度に向上していることを明らかにしました。
酸化還元酵素は、常温・常圧・中性で高い選択性を有する生体触媒です。中でも、一部の酸化還元酵素は、「直接電子移動型酵素電極反応(DET型反応)」と呼称される反応を進行し、酸化還元に伴って生じる電子を電極に直接授受することができます。DET型反応が可能な酵素(DET酵素)の中でも、ADHは卓越したDET活性を有しており、DET型エタノール酸化反応を触媒します。本反応は、バイオセンサやバイオ燃料電池などへの応用が期待されている一方、ADHが膜酵素であることが産業利用における課題の一つとなっていました。そこで本研究では、ADHの構造情報と計算科学的手法を活用し、本酵素の膜結合領域を推定しました。また、推定した膜結合領域を欠損させ、界面活性剤フリーのADH可溶化変異体(sADH)を構築しました。sADHは可溶性画分から単離・精製され、クライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)によってその構造が解明されました。さらに、 電気化学特性評価の結果、sADHのDET活性は、rADHの約2倍程度に増加していました。
本研究成果は、2026年3月12日に、国際学術誌「Chemical Communications」にオンライン掲載され、同誌の「Inside Front Cover」に採用されました。
研究者のコメント
「私たちの研究チームは、これまで電気化学と構造解析を主軸にDET型反応の研究を進めてきました。本研究では、新たに計算科学的手法を駆使し、変異体の設計や仮説検証に取り組みました。今後も新しいアプローチを積極的に取り入れながら、DET酵素の高機能化と応用利用に向けた研究に取り組んでいきます。」(市川小夏)
「本研究では、タンパク質構造の隅々まで目を凝らすという人間の知恵と努力に加え、計算科学的な仮説検証を融合することで、酵素の高機能化を達成しました。今後もDryとWetのアプローチを両立させながら酵素機能の謎に迫っていきたいと考えています。」(足立大宜)
「本研究は、2022年に40年以上未解明だった膜結合型酢酸菌酵素群の立体構造を私たちが世界で初めて解明した成果を礎としています。今回、これらの酵素群の一つであるADHにおいて、その膜結合機構を理解し、膜結合型タンパクのボトルネックの一つである酵素の可溶化に成功しました。今後、加速度的に発展している計算科学の知見を積極活用し、優れた酵素を開発できると確信しており、社会実装に向けた学術研究に挑戦し続けていきます。」(宋和慶盛)
【DOI】
https://doi.org/10.1039/D6CC00143B
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/300527
【書誌情報】
Konatsu Ichikawa, Taiki Adachi, Tomoko Miyata, Fumiaki Makino, Keiichi Namba, Yuki Kitazumi, Osamu Shirai, Keisei Sowa (2026). Structure-guided engineering of membrane-binding regions for surfactant-free solubilization of direct electron transfer-type alcohol dehydrogenase. Chemical Communications, 62, 31, 7948-7952.