井上飛鳥 薬学研究科教授、角野歩 生命科学研究科准教授、加藤英明 東京大学教授、光武亜代理 明治大学准教授らによる研究グループは、ヒトの生理機能調節に深く関わり、創薬上重要な標的でもあるGタンパク質共役型受容体(GPCR)について、そのGタンパク質活性化メカニズムの詳細を明らかにしました。
細胞の表面には、ホルモンや神経伝達物質など外からの合図を受け取る「受容体」が並んでいます。なかでもGPCRは、痛み・血圧・食欲・精神機能など多様な生理機能を調節しており、現在使われる医薬品の多くがこのGPCRを標的としています。GPCRが合図を受けると、細胞内のGタンパク質がGPCRと結合し、Gタンパク質はヌクレオチドであるGDP結合時の“OFF”状態から、GTP結合時の“ON”状態へと切り替わります。その後、Gタンパク質は受容体から離れて別のタンパク質の活性化を制御することで、細胞外の情報を細胞内へと伝達していきます。ところが、GPCRがGタンパク質を認識し、活性化する一連の流れは、ミリ秒〜秒という非常に短い時間スケールで進むため、その過程において何が起きているのか、分子レベルでの詳細は十分に解明されていませんでした。
私たちは神経ペプチド「ニューロテンシン」の受容体であるNTSR1をモデルにこの課題に取り組みました。クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)を用いた時間分解解析という手法を利用してNTSR1からGタンパク質が解離する過程をパラパラ漫画のように撮影・解析することで、GDPやGTPが結合する順番や、Gタンパク質内部に存在する“ふた”の開閉、受容体からの離脱が連動して起こる仕組みなどが次々に明らかになりました。さらに、高速原子間力顕微鏡や分子動力学シミュレーションといった手法も組み合わせることにより、NTSR1がGタンパク質と形成する、これまで存在は知られていたものの役割が不明だった「非典型(NC)状態」は、典型的な状態(C状態)とは別の活性化経路を持ち、C状態よりも素速くGタンパク質を活性化することを明らかにしました。
本研究成果は、2026年3月11日に、国際学術誌「Nature」にオンライン掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10228-w
【書誌情報】
Kazuhiro Kobayashi, Kouki Kawakami, Toshiki E. Matsui, Shun Yokoi, Masahiro Fukuda, Tomohiro J. Narita, Hiroki Arai, Mai Tambo, Takashi Sumikama, Manae Tatsumi, Keitaro Yamashita, Junki Koyanagi, Mai Kugawa, Hisako Ikeda, Ayumi Sumino, Ayori Mitsutake, Brian K. Kobilka, Asuka Inoue, Hideaki E. Kato (2026). The dynamic basis of G-protein recognition and activation by a GPCR. Nature.