移植後血栓性微小血管障害症(TMA)は、同種造血幹細胞移植後に起こる、稀ではありますが致死的な合併症の一つです。従来は病態に即した特異的かつ有効な治療はなく、支持療法が治療の主体であり、新規治療法の開発が待たれていました。近年、移植後TMAの病態の解明が進み、補体経路の活性化が移植後TMAの病態の中心をなすことが明らかになってきました。米国のOmeros社(Omeros Corporation)は、補体レクチン経路のエフェクター酵素であるMASP-2を阻害するモノクローナル抗体であるnarsoplimabを開発、Alessandro Rambaldi イタリア・ミラノ大学(University of Milan)教授らのグループが主導した単アーム第2層試験であるTMA-001試験で移植後TMAへの有効性と安全性が示されました(Khaled SK et al., J Clin Oncol, 2022)。しかし、従来治療群と比較した際にどれくらい有効であるかについては十分に明らかになっていませんでした。
そこで、松井宏行 医学部附属病院特定病院助教、諫田淳也 同講師、新井康之 同講師、髙折晃史 同教授らの研究グループは、Rambaldi教授らのグループと共同で、従来の支持療法で治療された移植後TMA 121症例をnarsoplimabで治療された77症例と比較し、narsoplimabの従来療法に対する有効性を解析しました。その結果、narsoplimabは、従来治療と比較し有意に移植後TMA患者の生命予後を改善することが明らかになりました。本結果から、補体レクチン経路の新規阻害薬であるnarsoplimabは、移植後TMAに対して従来療法より有効であり、造血幹細胞移植の治療成績の更なる向上に寄与することが期待されます。
本研究成果は、2025年10月11日に、国際学術誌「Blood Advances」にオンライン掲載されました。

研究者のコメント
「移植後TMAは、これまで支持療法以外には有効な治療法がなく新規治療の開発が待たれていました。様々な疾患に対して種々の補体経路阻害薬の開発が進む中で、レクチン経路の阻害薬であるnarsoplimabが移植後TMAに対して従来の支持療法と比較して有効であることが示されたのは画期的なことでした。私たちがKSCTGを通じて構築したレジストリーデータが、希少な移植関連合併症の新薬開発のための実臨床データとして比較対照群として活用されたのは大きな意義があります。今後も実臨床データを基に、より効果的な治療法の確立に貢献していきます。」(松井宏行、新井康之)
【DOI】
https://doi.org/10.1182/bloodadvances.2025017540
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/298812
【書誌情報】
Hiroyuki Matsui, Yasuyuki Arai, Junya Kanda, Tadakazu Kondo, Michelle L. Schoettler, Mohamad Mohty, Miguel-Angel Perales, Rafael F. Duarte, Alessandro Rambaldi, Akifumi Takaori-Kondo (2026). Survival in adults with high-risk TA-TMA: a comparative analysis of narsoplimab vs supportive care. Blood Advances, 10, 1, 111-120.