熱帯・亜熱帯海域のサンゴ礁は海洋生物の多様性を支える重要な生態系ですが、この生態系はサンゴの細胞内に共生する藻類である褐虫藻の共生によって支えられています。
石井悠 農学研究科特定研究員(兼:同日本学術振興会特別研究員(RPD)、東京大学客員連携研究員)、神川龍馬 同准教授、丸山真一朗 東京大学准教授らの共同研究グループは、サンゴ礁の健全な維持に不可欠な共生藻類である褐虫藻(Symbiodiniaceae科藻類の総称)の遺伝子解析を通じて、共生生活への進化を駆動した遺伝的メカニズムの一端を解明しました。本研究では、特に「Symbiodinium(シンビオディニウム属)」に着目し、共生する種(共生種)と共生しない種(自由生活種)の比較ゲノム解析により、デンプン合成に関わる遺伝子に、共生種に有利となるような進化である「正の自然選択」が生じたことを示しました。さらに共生した時の条件を模した培養実験により、共生種と自由生活種のデンプン蓄積パターンに顕著な違いがあることを明らかにしました。この発見は、サンゴと共生藻類における共生関係成立・維持の分子機構を理解する上で重要な知見であり、地球温暖化によるサンゴ礁の危機に対する新たなアプローチを提供する可能性を秘めています。
本研究成果は、2025年7月2日に、国際学術誌「Genome Biology and Evolution」にオンライン掲載されました。

「共生の起源とは?そんな単純な問いから始まり、現実の海に潜る代わりにゲノム情報の海に潜り込んで、太古の昔の進化の痕跡を探り当てたような、宝探しのような研究でした。今回の研究で探検できたのはほんの一部、褐虫藻のゲノムにはまだまだ未踏の大海原が広がっていて、今から次の航海が楽しみです。」(丸山真一朗)
「人間同士でも共生し続けることは難しい。刺胞動物と藻類が共生している仕組みをそっくりそのまま真似すべきでないし真似しようとも思わないが、遠い関係にある彼らですら共生しているという事実を客観的にかつただただ真摯に受け止めたい。」(神川龍馬)