内部の激しい権力争いが組織全体の生産性を下げるというのは人間社会でよく耳にする話です。個体にとっての最適と全体にとっての最適が食い違うことによって生じる諸問題は、近い血縁の個体のみで構成される社会性昆虫のコロニーでも、さまざまな形で現れます。生物は遺伝子、細胞、組織、個体、個体群といった階層構造でできていますが、異なる階層にかかる選択がどのような進化の帰結をもたらすのか、生物進化に関する最も難しく興味深い普遍的な問いの一つです。
この度、松浦健二 農学研究科教授、高田守 同助教、小林和也 フィールド科学教育研究センター准教授らの研究グループは、ヤマトシロアリの「単為生殖による女王継承システム(AQS)」に着目し、女王の座を巡る激しい競争が単為生殖卵の過剰生産を引き起こし、それらが機能不全の羽アリになって無駄になることで、コロニー全体に大きなコストをもたらしていることを発見しました。
本研究成果は、2024年5月22日に、国際学術誌「Proceedings of Royal Society B」にオンライン掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1098/rspb.2023.2711
【書誌情報】
Yao Wu, Tadahide Fujita, Yusuke Namba, Kazuya Kobayashi, Mamoru Takata, Edward L. Vargo, Kenji Matsuura (2024). Inter-clonal competition over queen succession imposes a cost of parthenogenesis on termite colonies. Proceedings of Royal Society B, 291I, 2023, 20232711.
京都新聞(6月5日 21面)に掲載されました。