シロアリ女王の椅子取りゲーム―熾烈な内部競争がもたらすコロニー全体のコスト―

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 内部の激しい権力争いが組織全体の生産性を下げるというのは人間社会でよく耳にする話です。個体にとっての最適と全体にとっての最適が食い違うことによって生じる諸問題は、近い血縁の個体のみで構成される社会性昆虫のコロニーでも、さまざまな形で現れます。生物は遺伝子、細胞、組織、個体、個体群といった階層構造でできていますが、異なる階層にかかる選択がどのような進化の帰結をもたらすのか、生物進化に関する最も難しく興味深い普遍的な問いの一つです。

 この度、松浦健二 農学研究科教授、高田守 同助教、小林和也 フィールド科学教育研究センター准教授らの研究グループは、ヤマトシロアリの「単為生殖による女王継承システム(AQS)」に着目し、女王の座を巡る激しい競争が単為生殖卵の過剰生産を引き起こし、それらが機能不全の羽アリになって無駄になることで、コロニー全体に大きなコストをもたらしていることを発見しました。

 本研究成果は、2024年5月22日に、国際学術誌「Proceedings of Royal Society B」にオンライン掲載されました。

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上段)ヤマトシロアリの単為生殖による女王継承システム。下段)女王継承に伴うクローン間対立。
研究者のコメント
「日本中どこの森にもいて、家屋害虫としてもよく知られているヤマトシロアリですが、こんなにも巧妙な繁殖様式をもっていて、その巣の中で女王達の熾烈な椅子取りゲームが行われているとは誰も想像できないのではないでしょうか。しかし、その究極的な繁殖様式をもつ特殊な生物の研究から明瞭に示されたことは、『個と全体の関係に潜むジレンマ』という生物進化のきわめて普遍的な原理です。シロアリの社会という不思議の国の扉を一つずつ開けていくような研究の積み重ねで得られた成果です。」
メディア掲載情報

京都新聞(6月5日 21面)に掲載されました。