細胞集団の曲率がカギとなる形作りの仕組み―肺が自律的に枝分かれする原理を提唱―

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 平島剛志 白眉センター/生命科学研究科特定准教授(現:シンガポール国立大学助教授)および松田道行 生命科学研究科教授は、肺の細胞が組織の湾曲を利用することで枝分かれ構造を自発的に生み出す仕組みを明らかにしました。ヒトやマウスの肺には、自然界に広く見られる繰り返し分岐構造を見つけることができますが、そのかたち作りの仕組みは謎に包まれていました。本研究では、発生期のマウスの肺を生体外で培養し、細胞や分子の働きを顕微鏡測定する新たな手法を開発しました。その結果、肺の組織の湾曲に応じて細胞の情報伝達に重要なERKタンパク質が活性化することが明らかになりました。また、ERKの活性化により細胞が機械的な力を生み出し、これによって組織の湾曲が制御されることもわかりました。さらに、得られた実験データを基に数理モデルを構築し、数理解析やシミュレーションをした結果、枝分かれパターン形成の原理となるフィードバック制御システムを提唱しました。本研究成果は、臓器のかたち作りに潜む自律的な仕組みの謎を解き明かすための基盤になると期待されます。

 本研究成果は、2024年1月15日に、国際学術誌「Current Biology」にオンライン掲載されました。

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フィードバック制御システムの概念図。肺組織の曲率増大を細胞が感知し、ERKが活性化する。ERKの活性化は細胞骨格であるアクチンの重合を促進し、肺の曲率を下げる。組織−細胞−分子の階層をまたいだ負のフィードバック制御により、自発的な分岐形態形成が生み出される。
研究者のコメント

「本研究成果は、JSTさきがけの支援による主たるものです。ようやく成果を発表できることに、喜びもひとしおです。研究場所の複数回の変更や、長くかかった査読プロセスにおいて査読者の意見が割れた後突然のリジェクトを食らうなど、研究者あるあるの試練がありましたが、周囲の人々、所属機関、そしてさきがけプロジェクトのメンバーの支えがあり、ここまでたどり着くことができました。やはり、研究は支え合う人々がいてこそ成り立つと、改めて感じています。」

研究者情報
研究者名
平島 剛志
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.12.049

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/287085

【書誌情報】
Tsuyoshi Hirashima, Michiyuki Matsuda (2024). ERK-mediated curvature feedback regulates branching morphogenesis in lung epithelial tissue. Current Biology, 34(4), 683-696:e6.