引退すると心疾患リスクが2.2%ポイント減-35か国約10万人の追跡調査-

ターゲット
公開日

 多くの既存研究は、高齢者の就労継続が健康に良いことを示唆していました。しかし、既存研究では、健康な人ほど就労継続しやすいというバイアスが十分に考慮されていない可能性があります。

 佐藤豪竜 医学研究科助教らの研究グループは、日本を含む35か国の50~70歳の106,927人を約6.7年追跡し、引退と心疾患リスクの関連を調べました。因果推論の手法を用いてバイアスを取り除いた結果、引退した人は、働き続けている人よりも心疾患リスクが2.2%ポイント低いことが初めて明らかになりました。また、引退した人は、身体不活動のリスクが3.0%ポイント低いことも示されました。

 現在、各国で年金の支給開始年齢の引上げや高齢者の就労継続支援が行われていますが、本研究の結果は、引退の遅れは必ずしも健康には良くないことを示唆しています。働く高齢者が増える中で、運動などの健康づくりがますます重要になると考えられます。

 本研究成果は、2023年5月8日に、国際学術誌「International Journal of Epidemiology」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
研究者のコメント

「これまで高齢者の就労継続は健康に良いものと信じられてきました。しかし、今回の研究によって、引退した人の方が、働き続けている人に比べて心疾患リスクが低いことが初めて明らかになりました。この結果は、引退によって仕事のストレスから解放されることや、運動する時間が増えることと整合的です。ただ、私たちは、意欲のある高齢者が働き続けることを否定するつもりはありません。高齢化が進展する中で、高齢者が働き続けられる環境を整備することは重要ですが、同時に運動などの健康づくりも大切になってくるでしょう。」(佐藤豪竜)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1093/ije/dyad058

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/284583

【書誌情報】
Koryu Sato, Haruko Noguchi, Kosuke Inoue, Ichiro Kawachi, Naoki Kondo (2023). Retirement and cardiovascular disease: a longitudinal study in 35 countries. International Journal of Epidemiology, 52(4), 1047–1059.

メディア掲載情報

読売新聞(5月27日 27面)、毎日新聞(5月29日夕刊 7面、5月30日 18面)、京都新聞(6月6日 17面)および朝日新聞(6月6日夕刊 6面)に掲載されました。