ウマは信憑性がある情報を持つヒトの指差しを参照する -その認知能力と注意力との関連性-

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 リングホーファー萌奈美 高等研究院研究員、山本真也 同准教授、ミレーナ・トロッシュ 仏・国立農業研究所(INRAE)博士課程学生、レア・ランサデ 同主席研究員らの研究グループは、ウマがヒトの「指差し」を社会的手がかりとして理解し、ヒトの知識状態に応じて指差しの信憑性を見分けられることを明らかにしました。さらに、その能力には個体差があり、この違いは個体の注意力の高さに関連していることがわかりました。

 ヒトの指差しを参照して隠された餌を探り当てる、この一見単純そうにみえる能力は、限られた動物でしかみられないことが知られています。その代表例がイヌです。イヌはヒトの指差しを社会的手がかりとして理解し、ヒトに対する社会的認知能力に長けています。これには家畜化のプロセスが大きく影響していると考えられてきました。しかし、ほかの家畜動物が、指差しを社会的手がかりとして理解できるのかはわかっていません。そこで、イヌと同様にヒトと密接な関係を築いてきたウマを対象に、実験を行いました。

 本研究では、餌の隠し場所を知っている実験者と知らない実験者の2人を用意し、ウマが正しい情報を持つ実験者の指差しを参照して隠された餌を見つけられるかを調べました。38頭でテストしたところ、全体では統計的に有意に高い成績は得られませんでした。しかし、実験課題に対して高い注意力を保った個体と、注意力を保てなかった個体に分けて分析したところ、注意力の高い個体では正答率が有意に高いことがわかりました。つまり、注意力が高いウマは各実験者が持つ餌場所に関する情報の信憑性を見分け、正しい情報を持つ実験者の指差しを参照して隠された餌を見つけることができました。これは、ウマがヒトの指差しを社会的手がかりとして理解するという高い社会的認知能力を持っていることを示すと同時に、この能力が発揮されるには実験課題へのモチベーションの高さも影響することを示唆しています。認知実験の成績を評価するだけではその種の社会的認知能力を正確には測れないことが明らかになりました。

 本研究成果は、2021年8月10日に、国際学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

実験の流れ。まず①のように、ウマからは見えないように衝立の裏側にバケツ2つを置いた状態で、ヒトAとBがそれぞれ、バケツが見えない/見える場所に立つ。ヒトCがウマにニンジンを見せた後、片方のバケツにニンジンを隠し、蓋を閉じる。次に②のように、Cが衝立を移動させてウマからもバケツが見えるようにする。その後③のように、AとBはそれぞれ別のバケツのそばに行って指差し、最後にウマを放ってどちらかのバケツを選択させる。
図:実験の流れ。まず(1)のように、ウマからは見えないように衝立の裏側にバケツ2つを置いた状態で、ヒトAとBがそれぞれ、バケツが見えない/見える場所に立つ。ヒトCがウマにニンジンを見せた後、片方のバケツにニンジンを隠し、蓋を閉じる。次に(2)のように、Cが衝立を移動させてウマからもバケツが見えるようにする。その後(3)のように、AとBはそれぞれ別のバケツのそばに行って指差し、最後にウマを放ってどちらかのバケツを選択させる。
研究者情報
書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.1038/s41598-021-95727-8

【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/265007

Monamie Ringhofer, Miléna Trösch, Léa Lansade, Shinya Yamamoto (2021). Horses with sustained attention follow the pointing of a human who knows where food is hidden. Scientific Reports, 11:16184.

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