野生ニシローランドゴリラにおいて集団レベルの右利きを発見 -ヒトの利き手の進化的起源が言語の獲得より前に遡る可能性を示唆-

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 田村大也 理学研究科博士課程学生、Etienne François Akomo-Okoue ガボン熱帯生態研究所研究員は、ガボン共和国ムカラバ―ドゥドゥ国立公園に生息する野生ニシローランドゴリラの行動観察を行ったところ、アフリカショウガ採食時の操作において利き手が見られることを発見しました。

 私たちヒト(ホモ・サピエンス)に共通して見られる利き手、特に集団レベルの右利きの進化的起源に関しては様々な仮説が提唱されており、今もなお議論が続けられています。ヒトに近縁でかつヒトと類似した手の形態を有する霊長類、特に大型類人猿はヒトの利き手の進化的起源を明らかにするうえで重要な比較対象となります。本研究では、ガボン共和国ムカラバードゥドゥ国立公園に生息する野生ニシローランドゴリラ21頭を対象に、草本植物であるアフリカショウガ(Zingiberaceae)の採食操作に使用する手の左右性の観察を行いました。合計4,293事例のアフリカショウガ採食行動を記録した結果、全21頭において個体レベルで明確な利き手が見られることが明らかになりました。さらに、21個体中15個体が右利き、6個体が左利きを示し、統計的に有意な集団レベルの右利きが検出されました。野生下のゴリラにおける集団レベルの右利きは本研究が初めての発見となります。本研究結果は、ヒトの利き手の進化的起源が言語の獲得より前に遡る可能性を示唆しています。

 アフリカショウガの採食行動はムカラバ地域のニシローランドゴリラのみならず、他地域のニシローランドゴリラ、また他種のゴリラ(マウンテンゴリラ・ヒガシローランドゴリラ)でも観察されます。さらに、チンパンジーやボノボといった他のアフリカ大型類人猿も採食することが知られています。そのため、この行動は野生下の大型類人猿を対象とした利き手研究に広く適用でき、私たちヒトおける利き手の進化的起源を解明する重要な行動指標のひとつになることが期待されます。

 本研究成果は、2021年1月11日に、国際学術誌「American Journal of Physical Anthropology」のオンライン版に掲載されました。

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アフリカショウガを採食する野生ニシローランドゴリラのコドモ(撮影:田村大也)
書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1002/ajpa.24227

Masaya Tamura, Etienne François Akomo-Okoue (2021). Hand preference in unimanual and bimanual coordinated tasks in wild western lowland gorillas (Gorilla gorilla gorilla) feeding on African ginger (Zingiberaceae). American Journal of Physical Anthropology, 175(3), 531-545.

メディア掲載情報

毎日新聞(2月6日夕刊 9面)および読売新聞(1月26日夕刊 11面)に掲載されました。