深海掘削により室戸岬沖の海底下生命圏の実態とその温度限界を解明

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 神谷奈々 工学研究科・日本学術振興会特別研究員らの研究グループは、海洋研究開発機構などと共同で、地球深部探査船「ちきゅう」を用いて、高知県室戸岬沖の南海トラフ沈み込み帯先端部の海底(水深4776 m・1.7℃)から深度1180 m・120℃までの堆積物コア試料を採取し、海底下環境に生息する微生物の分布や間隙水中の化学成分、堆積物の物性や温度などを詳細に分析しました。その結果、以下の通り室戸岬沖の地質環境と温度条件に依存した海底下生命圏の実態とその限界が明らかになりました。

  • 南海トラフ沈み込み帯先端部の海底堆積物環境において、40-50℃と70℃付近の深度区間が、生命(微生物)の存続にとって重要な温度限界域であることを突き止めた。
  • 海底下生命圏の温度限界域に、微生物の生存戦略の一つの形態である内生胞子が高濃度に存在することを見出した。
  • 70℃付近と90-110℃の深度区間に、微生物細胞や代謝活動のシグナルが検出されない環境を認めた。その深度区間には、微生物の消費を免れた高濃度の酢酸が存在していた。
  • 110-120℃の堆積物―基盤岩境界域に、酢酸を消費する超好熱性微生物群集の存在を発見した。

 本研究で得られた知見は、現場の温度や栄養・エネルギー状態のみならず、室戸岬沖の南海トラフ沈み込み帯先端部における地質学的プロセスや流体移動プロセスが、海底下深部環境における生命生息可能条件(ハビタビリティ)に重要な影響を与えていることを示しています。また、海洋プレートの沈み込み帯において、120℃までの堆積物〜基盤岩境界域においてもなお生命シグナルが検出されたことから、地球惑星における生命圏の広がりとその限界の可能性は、海洋プレートが沈み込むその先や堆積物の下に広がる岩石圏(海洋地殻や上部マントル)にまで及ぶことが示唆されました。

 本研究成果は、2020年12月4日に、国際学術誌「Science」のオンライン版に掲載されました。

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図:掘削地点C0023より検出された微生物細胞の蛍光顕微鏡写真
研究者情報
研究者名
神谷奈々
書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.1126/science.abd7934

Verena B. Heuer et al. (2020). Temperature limits to deep subseafloor life in the Nankai Trough subduction zone. Science, 370(6521), 1230-1234.

メディア掲載情報
  • 中日新聞(12月4日夕刊 8面)に掲載されました。