わずかな構造の違いで分子のまとまり方が変化 -高大接続プログラムによるユニークな成果-

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公開日

沖野浩平 工学研究科修士課程学生、井上由輝 同修士課程学生、酒巻大輔 同特定助教、関修平 同教授らの研究グループは、高大接続プログラム「ELCAS」の参加者である高校生と共同で、熱などの刺激に応答して結合が切れたりつながったりするラジカル分子(不対電子を持つ分子)をもとに、わずかな分子構造を変えることで二つの分子の結合のしかたを、シグマ結合性からパイ結合性へと変調できることを発見しました。

本研究成果は、2017年11月10日にドイツの化学誌「Angewandte Chemie」オンライン速報版で公開されました。

研究者からのコメント

本研究では、ラジカル分子が構造のわずかな違いによって二量化の際に全く異なる結合様式をとりうることが示されました。本研究は、ある種の共有結合の強度を分子設計によってコントロールする指針を与えるものと言えます。また、本研究で合成したような極めて弱い結合をもつ分子は、熱や圧力などの微弱な外部刺激によって性質が大きく変化することから、新たな材料への展開も期待できるものです。

本研究成果のポイント

  • 分子構造の設計により、ある種のラジカル分子間の結合様式が変調できることを発見
  • 高大接続プログラム「ELCAS」による研究成果

概要

熱や光といった外部刺激によって結合が切れたり繋がったりする共有結合は動的共有結合と呼ばれ、超分子や高分子のユニットに組み込むことにより、化学結合を可逆的に組み替えることができます。この性質を利用して高いリサイクル性を持つ材料や、自分で傷を修復する自己修復性材料への応用が期待されています。

本研究グループは、動的共有結合性を示す分子の中でもジシアノメチルラジカルに注目しました。ジシアノメチルラジカルは、古くから二つの分子がつながった状態(二量体・dimer)とそのつながりが切れた状態(ラジカル体)の間で平衡にあることが知られています。しかし、このラジカルはつながった状態(二量体側)に大きく偏って平衡状態が保たれており、組み替えの頻度が高くありません。また、結合を切ったりつないだりする以外の副反応によって簡単に分解してしまって、元の分子に戻らないといった問題がありました。その解決のため、対を作っていない電子(不対電子)を分子骨格上に広げることで、ラジカルを安定化できるのではないかと考えました。そこでジシアノメチルラジカルのベンゼン環を介したパラ位に、余分な電子を持つアミノ基を導入することにしました。

今回、3種類の異なるアミノ基を持つ分子(ジトリルアミノ基を有するDT‧、フェノチアジン基を有するPT‧、ジュロリジン基を有するJD‧)を合成し、その性質を系統的に調べました。その結果、DT‧およびPT‧がジシアノメチレン基同士のC-C結合(シグマ-結合)でつながったシグマ-dimerを形成していることが分かったのに対し、JD‧では、二つの分子の平面的な部分が重なった(パイ電子軌道同士が重なり合った)、パイ-dimerを形成していることが分かりました。

図:合成した三種類のラジカルの二量化様式(上)と各ラジカルの吸収スペクトルの温度変化(下)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1002/ange.201710354

Kohei Okino, Daisuke Sakamaki, Shota Hira, Yuki Inoue, Shu Seki (2017). Diversity of Dimerization Behaviors of N-Substituted Dicyanomethyl Radicals: Boundary between Dynamically Stabilized Radicals and a Stable Radical. Angewandte Chemie, 129(52), 16824-16828.

  • 京都新聞(11月28日 30面)に掲載されました。