新規共有結合性アスパラギン合成酵素阻害剤スタキベンザール類の発見―がん代謝特性を標的とする抗がん剤の開発に期待―

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 掛谷秀昭 薬学研究科教授、Lei Zhang 同博士課程学生、植草秀裕 東京科学大学教授、堂前直 理化学研究所ユニットリーダー、平野秀典 慶應義塾大学特任准教授らの研究グループは、新規共有結合性アスパラギン合成酵素(ASNS)阻害剤として、スタキボトリス属の糸状菌が生産する新規化合物スタキベンザールA~Cを見出し、非小細胞肺がんに対する抗がん剤シーズとしての有望性を明らかにしました。

 アスパラギン合成酵素(ASNS)は、L-グルタミン(L-Gln)を窒素源として、L-アスパラギン酸(L-Asp)からL-アスパラギン(L-Asn)を生合成する酵素であり、L-Asnのde novo合成における律速酵素です。ASNSは、肺がん、大腸がん、急性リンパ性白血病などで高発現が報告されており、がんの悪性化・再発や抗がん剤耐性に寄与する酵素です。本研究グループは、共有結合性ASNS阻害剤の開発のために、リジン残基模倣化合物N-Boc-L-Lysを用いた簡便かつ高感度な評価系を構築し、スタキボトリス属の糸状菌が産生するメロテルペノイド系新規化合物スタキベンザールA~Cを見出し、ASNSの556番目のリジン残基に共有結合することで酵素活性を阻害し抗がん活性を示すことを明らかにし、がん代謝特性を標的とする新規抗がん剤開発につながることが期待されます。

 本研究成果は、2025年7月10日に、国際学術誌「Journal of Natural Products」にオンライン掲載されました。

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スタキベンザールAは、ASNSの556番目のリジン残基(K556)を介した共有結合阻害剤である。
研究者のコメント
「共有結合性酵素阻害剤は、標的酵素の求核性アミノ酸残基と共有結合を形成し、強力かつ持続的な作用が期待されます。今回、微生物代謝産物を探索源として、共有結合性ASNS阻害剤を効率良く検出可能な評価系を確立し、新規ASNS阻害剤スタキベンザール類を見出しました。本研究成果が、がんの代謝特性を標的とした革新的な抗がん剤の開発や化学療法の開発につながることを期待しています。」
研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1021/acs.jnatprod.5c00572

【書誌情報】
Lei Zhang, Yanjun Pan, Hidehiro Uekusa, Takehiro Suzuki, Naoshi Dohmae, Akira Hattori, Yoshinori Hirano, Hideaki Kakeya (2025). Natural Lysine-Reactive Meroterpenoids, Stachybenzals A–C, as Covalent Asparagine Synthetase Inhibitors. Journal of Natural Products.