ファンコニ貧血の新規原因遺伝子RFWD3とその機能を明らかに

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高田穣 放射線生物研究センター教授、稲野将二郎 医学研究科博士課程学生(現・関西電力病院医員)らの研究グループは、ドイツのビュルツブルグ大学、スペインのバルセロナ自治大学と共同で、 RFWD3 という遺伝子の異常によって白血病の原因となる小児遺伝性疾患であるファンコニ貧血が引き起こされることを発見しました。さらに RFWD3 にはDNA修復の制御蛋白であるRPAとRAD51を適切なタイミングでDNA上から取り除く分子機能があることも発見しました。

本研究成果は、2017年7月11日午前6時に米国の科学誌「Journal of Clinical Investigation」および2017年6月1日付けでCell社の学術誌「Molecular Cell」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、高田教授、稲野博士課程学生

難病であるファンコニ貧血の患者さんは日本でもたぶん100人くらいしかおられませんが、こういった稀少な疾患研究は、直接その患者さんを助けるにしても、すぐには役に立たないかもしれません。でも、多くの人にとって直接間接に「役に立つ」時がやがてきっと来ます。例えば、今回のようなファンコニ貧血の原因遺伝子の発見は、細胞内の「DNA修復ナノマシン」の部品を新たに見つける有力手段です。23個目の原因遺伝子の発見ですから、修復ナノマシンの23個目の部品が見つかったわけです。家族性乳がん、卵巣がんをはじめ、発がん一般、幹細胞、老化などの理解、化学療法高度化の推進に、この修復ナノマシンの全貌解明はとても重要です。今回の患者さんが発見されていなかったら、この新しい部品を見つけるのにまだまだ時間がかかっていたに違いありません。このような疾患研究の重要性について、一般のみなさまのご理解がより深まっていったらいいなと願っています。

概要

小児の再生不良性貧血、急性骨髄性白血病、がんの重要な原因であるファンコニ貧血は、日本では100万人に10人程度と稀ながら、DNA損傷修復の欠損による典型的な病態として有名な疾患です。また、家族性乳がんと原因遺伝子が共通であるため学術的な重要性が高く、注目されている疾患です。

ファンコニ貧血はDNA損傷のうち、DNA鎖間架橋(以下、ICL)というタイプの損傷が修復できないために引き起こされます。ICL損傷は代表的抗がん剤シスプラチンや体内のアルデヒドによって引き起こされるタイプの損傷で、遺伝子の転写やDNA複製を妨げます。ファンコニ貧血の原因遺伝子を研究することでICL損傷の修復メカニズムが明らかになるため、現在までに20以上の原因遺伝子とそのICL修復機能が報告されてきました。今回の研究はドイツで見つかった10代の患者の遺伝子解析から原因遺伝子候補として RFWD3 が同定されたことをきっかけにスタートしました。

RFWD3 に異常を持つ患者の細胞では、ICLを導入する薬剤(抗がん剤シスプラチン等)に強い感受性を持っていました。この感受性は RFWD3 を導入することで回復しました。さらに、本研究グループはニワトリのリンパ球で RFWD3 のノックアウト細胞を作成し、ファンコニ貧血として妥当な性質が得られることを確認しました。さらに、患者で見られたアミノ酸を変化させる変異が RFWD3 のDNA修復機能を抑制することを確認し、重要なDNA修復タンパク質であるRPAとの結合力が低下しているというメカニズムを解明しました。また、スペインの共同研究先で作成したノックアウトマウスでも同様の現象が見られることを確認しました。

次に RFWD3 がICLの修復にどのように関わっているかを、ヒト細胞株での実験、精製したタンパク質を使った実験の双方で検証しました。その結果、 RFWD3 はDNA修復の重要な制御因子であるRPA、RAD51という二つのタンパク質をDNA上から取り除くことで、DNA修復のスムーズな進行を担保しているということを証明しました。 RFWD3 を欠失した細胞ではRPA、RAD51の可動性が低下し、それに伴いDNA修復の活性が劇的に低下することから、きわめて重要な因子であることが示唆されます。

図:細胞内 RFWD3 分子の活躍のイメージ図

RFWD3 は忍者姿で、RAD51とRPAはさくらの花びらで表現している。DNAの上で働きを終えたさくらは、 RFWD3 の働きで吹き飛ばされ、細胞内のタンパク質分解マシンであるPROTEASOME(プロテアソーム)に吸い込まれ、分解され、花吹雪となる。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1172/JCI92069

Kerstin Knies, Shojiro Inano, María J. Ramírez, Masamichi Ishiai, Jordi Surrallés, Minoru Takata, and Detlev Schindler(2017). Biallelic mutations in the ubiquitin ligase RFWD3 cause Fanconi anemia. Journal of Clinical Investigation, 127(8), 3013-3027.

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.molcel.2017.04.022

Shojiro Inano, Koichi Sato, Yoko Katsuki, Wataru Kobayashi, Hiroki Tanaka, Kazuhiro Nakajima, Shinichiro Nakada, Hiroyuki Miyoshi, Kerstin Knies, Akifumi Takaori-Kondo, Detlev Schindler, Masamichi Ishiai, Hitoshi Kurumizaka, Minoru Takata (2017). RFWD3-Mediated Ubiquitination Promotes Timely Removal of Both RPA and RAD51 from DNA Damage Sites to Facilitate Homologous Recombination. Molecular Cell, 66(5), 622-634, e1-e8.

  • 京都新聞(7月14日 28面)に掲載されました。