京都大学とアイズミ・バイオが、iPS細胞技術の進展に向け研究協力に合意 (2009年4月15日)

京都大学とアイズミ・バイオが、iPS細胞技術の進展に向け研究協力に合意 (2009年4月15日)

 京都大学 物質-細胞統合システム拠点 iPS細胞研究センター(京都市、以下CiRA)とアイズミ・バイオ社(本社:カリフォルニア州サンフランシスコ南部、以下アイズミ)は、日本発の技術であり、体細胞に遺伝子を導入することにより作製される人工多能性幹細胞(iPS細胞)に関する基礎研究を促進するための協力を行うことに合意しました。両者は交換したヒトiPS細胞を用いて、それぞれで創薬や細胞治療を進展させることを目指します。

 「幹細胞研究には、パーキンソン病や糖尿病、筋ジストロフィー等の治療を革新的に変え、新治療法を創出するという大きな可能性があります。iPS細胞技術は、『幹細胞のような』細胞を、胚ではなく少量のヒトの皮膚から作製できるという発見であり、幹細胞研究や臨床応用に新たな境地を開きます。分析試料やスクリーニングシステムを開発するために患者由来の疾患特異的細胞を使用することで、効率的に医薬品候補のスクリーニングを行い、臨床応用までにかかる時間を短縮することができ、従来の創薬の手法を変える可能性があります。」と、ベンチャーキャピタルのクライナー・パーキンズ・コーフィールド・アンド・バイヤーズ(KPCB)のパートナーである元米副大統領のアル・ゴア氏は述べています。「サイエンス」(米国科学誌)が2008年の『ブレーク・スルー・オブ・ザ・イヤー』として細胞リプログラミング、すなわちiPS細胞技術を選んだことに触れ、ゴア氏は「2つの先端研究機関による連携は、iPS細胞研究を促進し、早期に幹細胞研究の臨床応用を実現するための重要なステップです。」と締めくくりました。

 この提携により、CiRAとアイズミは、互いが保有する、様々な手法で作製された代表的ヒトiPS細胞株の一部を交換します。医薬品候補のスクリーニングや新薬開発、細胞治療にそれぞれ最適なiPS細胞株を樹立する方法を見定めるため、両者は独立してiPS細胞株の比較や特性解析を行い、その結果を共有します。

 「米国の有力なバイオテクノロジー・ベンチャーであるアイズミと、この重要な技術の進展のために基礎研究で協力する機会に恵まれることを喜ばしく思っています。この提携により、iPS細胞の安全なクローン評価方法の確立に貢献し、世界のiPS細胞技術開発が加速されることを期待しています。」と京都大学 物質-細胞統合システム拠点 iPS細胞研究センター(CiRA)長の山中伸弥教授は述べています。「CiRAは、一日も早いiPS細胞の臨床応用を実現するために、今後も、国内外の研究機関との協力構築を積極的に進めていきます。」

 CiRAおよびアイズミは、それぞれ、遺伝型、表現型情報が得られる患者さんから皮膚細胞を採取し、iPS細胞を作製し、それをあらゆる組織の細胞に分化誘導させます。その分化した細胞をベースとした疾患特異的評価系として、低分子化合物や生物製剤等、創薬に使用される他の作用物質の同定に用います。

 「この提携は、iPS細胞技術の進展を目指しています。これにより、創薬や新薬開発をより早く効果的に行い、本技術の社会認知を得るという目的を達成するでしょう。そして、未だ対処されていない医療ニーズに応えられるような新治療法を創造することができるようになるでしょう。我々のアプローチは、創薬における過程の中心に患者さんを位置付けるというパラダイムシフトに基づいています。」とアイズミCEOであるジョン・P・ウォーカー氏は述べています。「まず初めに、我々はパーキンソン病、脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)という3つの神経疾患に着目します。それは、現在これらの疾患には限られた治療法しかありませんが、疾患の影響を受けるタイプの細胞を分化させることができると研究者が証明しているからです。グラッドストーン研究所との協力により、我々は石灰化大動脈弁疾患を含む心臓血管疾患にも着目しています。」

 山中教授は、2006年に世界で初めて成体マウスの線維芽細胞に4つの遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を導入することにより、新しい多能性幹細胞であるiPS細胞を作製したと発表、2007年にはヒトiPS細胞作製にも成功し、胚性幹細胞(ES細胞)の倫理的課題や免疫拒絶を解消する偉業と評価されました。これらを報告した論文が発表され、世界の幹細胞研究における関心や課題が一新されるという衝撃的な現象がおこりました。山中教授は、iPS細胞技術分野の第一人者として、現在はCiRAを中心として研究活動を展開しています。

アイズミ・バイオについて

 アイズミ・バイオはサンフランシスコ南部にあるバイオテクノロジー企業で、患者さんの細胞を細胞リプログラミングや誘導分化することを通して新たな治療法を創造することをミッションとし、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の産業化を第一の目的としています。アイズミは2007年に設立され、クライナー・パーキンズ・コーフィールド・アンド・バイヤーズとハイランド・キャピタル・パートナーズの出資を受けています。アイズミは未だ対処されていない医療ニーズに応えられるような新治療法を創造するため、グラッドストーン研究所心臓血管研究所、および心臓血管疾患領域のディーパク・スリバスタバ医学博士と協力しています。

 アイズミの技術は、体細胞をリプログラミングし、多能性をもった状態にします。iPS細胞は幹細胞に似た特徴をもち、いかなるタイプの細胞にも分化することができるので、疾患研究や医薬品の前臨床試験、細胞治療に大きな可能性があるとされています。アイズミのアプローチにより患者さんを創薬の過程の中心に位置付け、新薬開発にかかる時間を減らし、効率的に医薬品候補のスクリーニングを行うことができるようになるでしょう。アイズミは、特定の疾患を治療することのできる独自のパイプラインを獲得するため、新たな分子標的を探し出し、特許で保護された治療用小分子やバイオ薬品を開発できるよう、iPS細胞技術を含む細胞リプログラミング技術を使用することを計画しています。

京都大学 物質-細胞統合システム拠点 iPS細胞研究センター(CiRA)について

 2007年11月に山中伸弥京都大学教授(再生医科学研究所再生誘導研究分野)がヒトiPS細胞樹立成功を発表したことを受け、2008年1月22日に、日本のiPS細胞研究の中核拠点として設立されました。世界初のiPS細胞研究を主とした研究機関でもあります。以来、山中教授をセンター長として、iPS細胞技術の臨床応用を目指して基礎研究から臨床研究まで、一貫した研究活動を展開しています。

 2008年10月には、従来の方法であるレトロウイルスベクターを用いずにプラスミドを導入することでマウスiPS細胞の樹立成功を発表し、より安全で効率的な樹立方法の確立を試みています。また、様々な年齢のヒトiPS細胞の作製や、多岐にわたる疾患特異的iPS細胞の樹立も推進しています。現在、主任研究者は11人ですが、今後、国内外から優秀な研究者を採用し、研究体制を強化・拡大する予定です。2010年2月には地上5階、地下1階の新研究棟が完成し、臨床応用に向けて研究の更なる加速化をはかります。海外研究機関との連携も積極的に展開しております。2008年10月にトロント大学(カナダ)と、12月にノボセル(米国)とそれぞれ研究協力に合意しました。

関連リンク

 

  • 京都新聞(4月15日 2面)、産経新聞(4月15日 25面)、日本経済新聞(4月15日 9面)、毎日新聞(4月15日 2面)および読売新聞(4月15日 2面)に掲載されました。