ネアンデルタール人と現生人類は価値観を共有していた―小さな貝の化石が語る人類交流の歴史―

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概要

   京都大学大学院理学研究科の森本直記准教授とトルコ・ガジアンテップ大学のバイカラ・イスマイル教授らの研究チームは、トルコ共和国南部に位置するウチャーズリII洞窟における発掘調査により、単一の遺跡からネアンデルタール人と現生人類ホモ・サピエンス(サピエンス)の両方の化石を発見しました。特筆すべきは、これらの異なる人類種が2万年以上にわたり、安定して共通の文化を維持していた点です。彼らは同じ手法で石器を製作し、同じ食糧調達戦略をもっていました。こうした文化の共通性は、石器や食糧といった実用面だけでなく、非実用的な自然物の収集行動にも及んでいました。特に、2つの人類種は共通して食用に適さない特定の種の貝殻を収集していました。種を超えた文化の共通性の背景には両者の交流があり、そしてその交流の基盤には、特定の「役に立たないが美しい」貝殻の収集に表れているように、種を超えた価値観の共有があったと本研究グループは考えています。今回本研究グループが発見したサピエンスの化石は約5万年前〜6万年前のものであり、アフリカ外の現生人類の遺伝的基盤が形成されたと推定される年代と合致しています。この時期のサピエンスの化石記録は極めて乏しく、本発見は化石記録の空白を埋める点、さらに、そのサピエンスがネアンデルタール人と交流していた可能性を示す点で重要な成果です。

 本研究は、トルコ(ガジアンテップ大学、黒海工科大学、アンカラ大学)、フランス(ボルドー大学)、そして日本の研究者による国際共同研究です。日本からは、森本直記准教授の他、国立科学博物館の森田航研究主幹、福岡大学の石原与四郎助教が参画しました。

  本成果は、2026年7月7日(日本時間)に米国の科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(通称PNAS;米国科学アカデミー紀要)」に掲載されました。

画像
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ウチャーズリII洞窟での発掘の様子(2024年撮影)。発掘している場所は20平米ほどの広さの空間です。ミリ単位で慎重に掘り進め、遺物が発見された場合はその三次元座標をミリ単位の精度で記録します。

研究者のコメント

「数万年前の洞窟時代は、現代社会と比べ、食糧の入手は切実で文字通り死活問題だったはずです。そのような環境でも、食べられもしない貝殻に価値を感じていたことは、人間にとって芸術や好奇心が根源的な欲求であることを意味していると私は考えています。ネアンデルタール人や我々の祖先(かもしれない人々)の心に迫ろうとするところに、発掘調査の醍醐味があるといえます。トルコの人たちと泥と汗まみれになりながらたどり着いた成果を面白いと思ってもらえたなら、これに勝る喜びはありません。今後も発掘調査を続け、『我々は何者なのか』という問いに正面から取り組んでいきます。」(森本直記)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1073/pnas.2609061123

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/301844

【書誌情報】
İsmail Baykara, Didem Turan, Ece Eren Kural, Derya Silibolatlaz, Mustafa Kenan Agras, Eren Şahiner, Salih Kavak, Clément Zanolli, Yoshiro Ishihara, Wataru Morita, Naoki Morimoto (2026). Long-term cultural continuity across the Neanderthal–modern human sequence at Üçağızlı II Cave, northern Levant. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 123, 29, e2609061123.

メディア掲載情報

朝日新聞(2026年7月7日 3面)、京都新聞(2026年7月7日 1面)、日刊工業新聞(2026年7月7日 19面)、読売新聞(2026年7月7日 21面)に掲載されました。