脳の揺らぎは情報を制限しない―高次元ノイズのスケール不変性から、30年来の問いに答える―

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概要

 神経細胞を増やせば脳が読み取れる情報は際限なく増えるのか、それとも神経細胞同士が共有する揺らぎ(ノイズ)によって、やがて上限に達し、制限されるのか。神経科学では1990年代以来、共有ノイズによって情報は制限されると考えられてきました。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のS. Amin Moosavi氏、ハーバード大学のSai Sumedh R. Hindupur氏、京都大学大学院情報学研究科の島崎秀昭准教授(兼:北海道大学人間知・脳・AI研究教育センター客員准教授)らの国際共同研究チームは、マウス一次視覚野(V1)の大規模神経活動データと数理理論を組み合わせ、神経集団から読み取れる情報量(よく似た刺激を見分ける精度)が神経細胞の数とともにどう増えるかを解析しました。その結果、共有ノイズは情報を制限せず、情報量は神経細胞の数とともに上限なく増え続け得ることを明らかにしました。

 記録できる神経細胞数には限りがあり、その先は観測から直接にはわかりません。予測には仮定が必要ですが、近年の大規模解析はいずれも、それぞれの仮定のもとで情報は制限されると結論していました。本研究はこの仮定を二つの根拠に置き換えました。一つは、マウスV1の神経活動に見られる規則性です。ノイズの構造も、信号との関係も、集団の大きさを変えて正規化すれば同じ形を保ち(スケール不変性)、いずれもべき乗則に従うことがわかりました。もう一つは、大きな集団から一部を取り出して観測することが課す制約です。両者から観測範囲外の振る舞いが導かれ、べき乗則の指数と情報の制限との関係が明らかになりました。実測された指数を当てはめると、情報量は増加の速度を落としつつも上限なく増え続けることがわかりました。論文では、情報が制限される必要十分条件から制限を課す相関の構造にいたるまで、集団符号化の包括的な理論も提示しています。これらの結果は、大規模な神経活動から情報の限界を見積もる新たな道を開きます。

 本成果は2026年9月25日午後2時(米国東部標準時)に米国の国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

画像
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神経細胞の数を増やしたときに読み取れる情報量の増え方を表したイメージ図(Illust. Robin Hoshino)

研究者のコメント

「本研究の核心は、ノイズ固有値スペクトルと、ノイズと信号の整列度に見いだされた、スケール不変なべき乗則です。これらの法則は集団サイズによらないため、実験で観測できる有限の神経集団を超えて、情報量の増え方を評価できます。二つのべき指数の関係だけで、情報が上限を持つ領域と持たない領域のさかい目が決まります。このシンプルな構造にたどり着けたことを嬉しく思っています。」(S. Amin Moosavi)

「マウス一次視覚野の大規模神経活動データから、集団サイズごとのノイズ固有値スペクトルと信号との整列度を慎重に推定しました。実データで明瞭なスケール不変性を確認できたのは驚きでした。さらに、スケール指数を変えた模擬データでも、情報量が上限に近づく場合と上限なく増える場合が理論どおりに現れ、興奮しました。」(Sai Sumedh R. Hindupur)

「神経細胞同士が共有する揺らぎが情報を制限するという、30年来の定説を覆す結果になりました。非常に長い議論を経て作り上げたもので、美しい理論と重厚な実験データ解析を両輪として、線形に読み出される情報量の包括的な理論を構築できたことを嬉しく思います。本理論が神経符号化研究の次のスタンダードとなることを期待しています。」(島崎秀昭)

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