研究者情報
研究者名
Hinako Asakura
研究者名
佐藤 拓哉
概要
寄生生物の中には、自らの利益のために宿主の行動を巧みに操るものがいます。このような現象は、寄生生物にとって適応的な表現型が、他種である宿主に現れたものと解釈され、延長された表現型と呼ばれています。寄生虫ハリガネムシ(図a;成虫は体長数cmから40 cmほど)はその代表例で、宿主である陸生昆虫を水に飛び込ませ、陸生昆虫から脱出し、水中で繁殖します。これまでの研究から、昼間に活動するカマキリでは、水面から反射する光(水平偏光)が水への誘引に重要な役割を果たすことが分かっていました。水平偏光は水位が深い水面から多く反射するため、水平偏光を使うことで、水域の中で比較的深く枯れにくい場所に選択的に飛び込ませているのです。では、夜行性の昆虫が宿主の場合はどうでしょうか。もし同じように水平偏光を手がかりにするなら、宿主が水に飛び込むタイミングは、夜の明るさを大きく変える月の満ち欠けに左右されるかもしれません。
京都大学大学院理学研究科の朝倉日向子博士後期課程学生と、京都大学生態学研究センターの佐藤拓哉教授らの研究グループは、夜行性のカマドウマ(図b)がハリガネムシに操られて水に入るタイミングを野外で調べました。その結果、カマドウマが水に入るのは主に夜間でしたが、予想に反して、満月でも新月でもその頻度に違いはみられませんでした(図c)。この結果は、ハリガネムシが夜行性の宿主を水へ導く際には、昼行性のカマキリとは異なり、水面からの反射光だけに頼らない別の仕組みを利用している可能性を示しています。
本成果は、2026年9月10日に米国の国際学会誌「Ecology」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「現在の研究室で大学院生として研究を始めるにあたり最初に思いついた仮説が、この月齢依存の操作仮説でした。結果として、仮説は否定されましたが、昼行性宿主を利用するハリガネムシと夜行性宿主を利用するハリガネムシで異なる適応的な操作機構を持つのかもしれないという新たな仮説が得られました。今後も仮説が正しくない可能性も恐れずに色んな発見をしていきたいです。」(朝倉日向子)
「お月さんの年齢を数えながら、明るい夜や真っ暗な夜のフィールドに向かう日々は、楽しく、好奇心に満ちたものでした。仕組みはまだまだわかりませんが、『陸の虫を水に飛び込ませる』という驚きの行動操作にも、実はいろいろなやり方があるのだと思うと、これからの研究がますます楽しみになります。」(佐藤拓哉)