遠くまで届く磁気の力が相転移を支配―絶縁性フェリ磁性体で「平均場臨界性」を初めて実証―

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概要

 京都大学複合原子力科学研究所の南部雄亮 特定教授らの国際共同研究グループは、メリライト型酸化物Eu2MnSi2O7において、絶縁性フェリ磁性体では初めて、長距離の磁気双極子-双極子相互作用が磁気相転移付近の温度変化を決定し、「平均場理論」に近い臨界現象を生み出すことを明らかにしました。

 約10.6 K(約マイナス262.6 ℃)の転移温度付近で磁化測定から求めた臨界指数はβ = 0.423(6)、γ = 0.894(5)、δ = 3.129(2)で、平均場理論の値(β = 1/2、γ = 1、δ = 3)に近く、中性子粉末回折実験によって得られたβ = 0.41(4)とも一致しました。さらに、Eu2+イオンとMn2+イオンの磁気モーメントが互いに反対向きに並びながら完全には打ち消し合わない、わずかに傾いたフェリ磁性的磁気構造を形成していることを明らかにしました。

 本研究は、短距離の交換相互作用がフェリ磁性秩序そのものを安定化する一方、弱くてもより遠くまで届く双極子相互作用が臨界点近傍の普遍的な振る舞いを決めるという役割分担を示しています。これまで主に強磁性体で知られていた双極子相互作用駆動の平均場臨界性をフェリ磁性体へ拡張し、今後、反強磁性体を含む磁気相転移の普遍性を検証するための新たな基盤となることが期待されます。本研究成果は2026年8月12日に米国物理学会の国際学術誌Physical Review Lettersにオンライン掲載されました。

画像
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フェリ磁性相転移の性質を表す臨界指数β(赤)、γ(緑)、δ(青)を、中性子粉末回折(NPD)、Kouvel-Fisher(KF)解析、および磁化の磁場依存性M(μ0H) から求め、平均場理論と代表的な理論モデルの値と比較した。実験値は平均場理論の予測に近く、長距離の磁気双極子相互作用が相転移を支配していることを示す。右に中性子回折で決定した磁気構造を、c軸方向(上)およびb軸方向(下)から眺めた図を示す。矢印と角度は、EuとMnの磁気モーメントがほぼ反平行に配列し、わずかに傾いていることを示す。(作成:南部雄亮)

研究者のコメント

「相転移の近くでは、微視的に最も強い相互作用が必ずしも臨界挙動を決めるとは限りません。今回、短距離の交換相互作用がフェリ磁気秩序を作る一方で、より弱くても遠くまで届く双極子相互作用が転移点近傍の“ルール”を決めることを示しました。Euを含むため中性子実験が難しい物質でしたが、磁気構造と臨界指数を同じ研究で結びつけられたことに意義があります。次は反強磁性体でも同じ普遍性が成り立つかを確かめたいと考えています。」(南部雄亮)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1103/5ftk-7qyg

【KURENAI アクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/302944

Masahiro Kawamata, Maxim Avdeev, Yusuke Nambu (2026). Dipolar-Driven Mean-Field Criticality in the Ferrimagnet Eu₂⁢MnSi₂⁢O₇. Physical Review Letters, 137, 7, 076703.