中高年発症の幻覚・妄想に認知症の原因タンパク質の関与を実証~独自のPET技術でタウ病変を可視化、精神症の早期診断、治療薬開発への応用に期待~

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研究者情報

概要

 量子科学技術研究開発機構(理事長 小安重夫、以下「QST」)、慶應義塾大学、京都大学、東京科学大学の研究グループは、国立病院機構下総精神医療センター等と共に、中高年に発症した精神症の方(患者)の脳内にタウタンパク質(以下、タウ)の病変が多様なパターンで蓄積し、その発症に関連している可能性を明らかにしました。

 幻覚や妄想等の精神症状は、統合失調症などの病気でみられます。それらは典型的には思春期や青年期に起こりますが、中高年期に初めて発症するケースも少なくありません。こうした方々は必ずしも受診につながらないことも多く、実際に治療を受けているのは4分の1程度に過ぎないとの報告もあります。地域社会に未診断・未治療のまま生活している方々も少なくないと考えられています。中高年期に生じる幻覚や妄想は、本人や家族・介護者への影響が大きく、高齢化が進む社会において深刻な問題となっています。中高年期に初めて幻覚や妄想等を呈する精神症(統合失調症や妄想症を含む)は、若年発症例とは症状の現れ方が大きく異なり、過去の疫学研究や死後脳を用いた研究から認知症の前段階である可能性が指摘されていました。しかし、これまで生体内でその原因となる異常タンパク質の蓄積を証明した研究は極めて限定的でした。これは、異常タンパク質を正確に定量・可視化する技術が限られていたためです。

 本研究では、この課題を克服するため、 QSTが開発した様々な認知症や関連疾患におけるタウ病変を感度良く捉えることができるPET薬剤florzolotau(18F)を用い、40歳以降に発症した精神症の患者37名を対象に検査を実施しました。その結果、タウ病変が認められたのが、健常対照者では約15%にとどまったのに対し、患者では約65%にのぼりました。また、タウ病変が認められた患者の中には、アミロイドβの蓄積が認められる方(アルツハイマー病型)と認められない方(非アルツハイマー病型)がほぼ半数ずつみられました。このことは、精神症の背景にアルツハイマー病型・非アルツハイマー病型を含む多様なタウ病変を原因とする神経変性疾患が潜んでいる可能性を示すものです。また、アミロイドβの蓄積が認められた例では、タウ病変が多いほど実行機能(計画性や注意力の制御)が低下していることも確認され、タウ病変が実際の認知機能と関連していることも示されました。以上の結果は、中高年発症の精神症の背景に認知症と共通した多様な神経変性が存在することを世界で初めて生体脳で実証したものであり、精神症が認知症の前駆症状である可能性を裏付ける重要な知見です。

 アルツハイマー病においては、脳内のアミロイドβやタウ病変の評価による診断や治療への応用が進んでいるのに対し、幻覚や妄想を主症状とする精神症においては、客観的な診断や治療の選択肢は限られていました。本研究成果は、これまで原因不明の精神疾患として扱われてきた精神症の中に、認知症と共通した様々な異常タンパク質病変を有するケースが一定数存在する可能性を示しています。今後は、PET検査を用いた客観的な神経変性の評価に基づき、早期診断・早期介入の実現や、各患者の病態に基づいた根本的な治療薬の開発が進展することが期待されます。

 本研究の成果は精神疾患分野において極めて注目度が高い国際的な学術誌の一つである『Molecular Psychiatry』のオンライン版に、2026年8月3日(月)9:00(日本時間)に掲載されました。

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タウPETとアミロイドPETそれぞれの陽性の割合
ピンクはタウPET陽性となった例、紫はアミロイドPET陽性となった例、灰色はそれぞれの検査で陰性となった例を表しています。精神症患者でアミロイドPET陽性となった13名のうち12名はタウPETも陽性であり、健常群でアミロイドPET陽性となった1名はタウPETも陽性でした。