光を熱に変える:海の珪藻が光合成を調節するしくみの解明―新規光捕集タンパク質による過剰な光エネルギーの消去機構―

ターゲット
公開日

研究者情報

研究者名

Jian Xing

概要

 海洋の植物プランクトンである珪藻は、地球規模の炭素固定に大きく貢献しています。海洋では光環境が絶えず変化するため、珪藻は弱い光を効率よく利用すると同時に、強すぎる光から自身を守る必要があります。この過剰な光エネルギーを熱として逃がす仕組みは非光化学的消光(Non-Photochemical Quenching、略してNPQ)と呼ばれますが、NPQを担う光防御装置がどのように形成されるのかは十分にわかっていませんでした。京都大学大学院農学研究科のXING JIAN(邢 健)博士課程学生、同じく伊福健太郎教授、および北海道大学低温科学研究所の熊沢穣研究員(現大阪大学大学院理学研究科の助教)らの研究グループは、海洋性珪藻Chaetoceros gracilisにおいて、光捕集タンパク質Lhcf2がNPQに必須であることを明らかにしました。Lhcf2を欠損させると、NPQの中心因子であるLhcx1タンパク質が安定に蓄積できなくなり、強光下で過剰な光エネルギーを熱として逃がす機能がほぼ失われました。一方、NPQに必要なpH勾配形成やキサントフィルサイクルは正常に働いていたことから、Lhcf2はLhcx1を含む光防御装置を安定に形成するための構造的な足場として機能することが示されました。本成果は、珪藻の光防御装置が複数の光捕集タンパク質の協調により形成されることを示すものであり、海洋光合成を支える強光適応機構の解明に大きく貢献することが期待されます。本成果は、2026年6月30日に国際学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されました。

画像
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研究成果の概要図。海洋性珪藻(Chaetoceros gracilis)の野生株(WT)において、Lhcf2は光合成装置(PSII)周辺でLhcx1と過剰な光を熱に変換するNPQ装置を形成する(上図)。Lhcf2を欠損するlhcf2変異株では、Lhcx1は安定に蓄積できず、有効なNPQ装置が形成されない(下図)。(図はXing Jian がMS PowerPointにて作成)

研究者のコメント

「珪藻は海洋の光合成を支える重要な生物ですが、その光防御装置がどのように形成されるのかは十分にわかっていませんでした。その一因として、光防御装置の形成に関わると考えられる周辺アンテナ領域は不安定で、現在のクライオ電子顕微鏡構造解析では捉えにくいことが挙げられます。本研究では、NPQの中心因子であるLhcx1だけでなく、別の光捕集タンパク質Lhcf2がLhcx1の安定な蓄積に不可欠であることを発見しました。全く予想外の結果で、結果を見たときは信じられず、何度も再解析を行って確認しました。この結果は、珪藻の光防御装置が複数の光捕集タンパク質の協調によって形成されることを示しており、海洋光合成の環境適応戦略を理解するうえで重要な一歩であると考えています。」(XING JIAN(邢 健))