皮膚バリア機能を高めるシグナル伝達経路―新たな皮膚疾患の治療法の開発の糸口に―

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概要

 皮膚の最も外側にある表皮は、異物の侵入や水分の蒸散を防ぐ重要なバリアです。アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患では、この表皮バリア機能に異常が生じ、乾燥やかゆみ、炎症が引き起こされます。現在、治療にはステロイド外用薬や保湿剤などが用いられています。その一方で、表皮バリア機能の改善を目的とした治療薬は限られており、バリア機能を調節する仕組みのさらなる解明が望まれています。

 京都大学大学院薬学研究科の鎌倉希博士課程学生と井上飛鳥教授(兼: 東北大学大学院薬学研究科教授)および京都大学大学院医学研究科の椛島健治教授らの研究グループは、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)が司るシグナル伝達経路のうち、G12シグナルを選択的に誘導するデザイナー受容体(DREADD)を用いた研究により、表皮におけるG12シグナルは表皮の肥厚と表皮バリア機能を促進することを明らかにしました。表皮にはG12シグナルを誘導する内在性GPCRが存在することから、これらのGPCRに対する作動薬の開発が皮膚疾患の新たな治療法につながることが期待されます。

 本研究成果は、2026年7月31日に、FASEB BioAdvancesに掲載されました。

画像
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G₁₂シグナルの誘導による皮膚バリア機能の亢進。G₁₂シグナルを誘導する人工受容体を表皮に発現させたマウス(右)では、この受容体に対するデザイナー作動薬を投与すると、表皮の肥厚とバリア機能の向上が認められた。表皮細胞において、G₁₂シグナルはmTORC1経路を活性化し、細胞の分化や増殖に関わる遺伝子の発現を促すことが明らかとなった。©️京都大学・薬学研究科・シグナル薬理学分野

研究者のコメント

「表皮の肥厚は一般には皮膚疾患で見られる変化であるため、研究を始めた当初は、『これは病態に近い現象なのではないか』と戸惑いながら研究を進めていました。しかし、予想に反する結果を一つずつ確かめる中で、炎症を伴う病態様変化ではなく、表皮バリア機能を高める新たな仕組みであることが見えてきました。驚きとともに、この発見を皮膚疾患に悩む方々の新しい治療法に繋げたいと強く感じています。」(鎌倉希)

「当初、体毛の増加を期待して、表皮G12Dマウス(毛包にもG12Dが発現します)のプロジェクトに着手しました。残念なことに、体毛の変化は見られなかったのですが、健常な皮膚の肥厚という表現型を見出して今回の成果につなげました。この表皮G12Dマウスはドライアイを発症することを見出していて、涙液産生(分泌腺にG12Dが発現)に着目した研究を進めています。」(井上飛鳥)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1096/fba.2026-00042

【書誌情報】
Nozomi Kamakura, Natsumi Hirai, Kaito Arai, Yaxin Du, Toshiaki Kogame, Yusuke Ohno, Akio Kihara, Kenji Kabashima, Asuka Inoue (2026). Chemogenetic Activation of G₁₂ Signaling Thickens the Epidermis With Enhanced Barrier Function. FASEB BioAdvances, 8, 8, e70138.