概要
よく似た環境に暮らす近縁の種が、足の色に同じ色彩変異をもつなら、その色彩は同じ仕組みで進化し、維持されているのでしょうか。日本に広く分布するトビズムカデとアオズムカデは、生態がよく似ているうえ、どちらにも足が赤い個体と黄色い個体が見られ、この問いを検証する格好の研究対象です。宇野良祐 京都大学大学院理学研究科博士課程学生と伊與田翔太 同研究科博士課程学生は、市民科学に投稿された全国の写真記録を活用し、両種では色彩変異の起源や維持の仕組みが異なる可能性を明らかにしました。
本研究では、両種の足に見られる色彩変異の分布を地図化し、気候、餌、捕食者(ムカデを食べる動物)との関係を解析しました。その結果、両種の分布域や生態はよく似ている一方、各色の分布パターンが大きく異なることを発見しました。トビズムカデでは赤型と黄型が全国的に共存し、それぞれの型が生息する気候条件(「気候ニッチ」といいます)や捕食者の構成に違いが見られた一方で、アオズムカデの赤型は関東から東海の太平洋側に限られ、餌や捕食者にも違いは見られませんでした。この分布は、赤型が近年移入し、現在も分布を広げつつある可能性と整合します。つまり、外見上は似た色彩変異でも、その成り立ちや維持の仕組みは同じとは限りません。今後は遺伝解析、野外実験などを通じて、この色の違いがどのように生まれ、なぜ残されてきたのかを解き明かしていきます。
本研究成果は、2026年6月23日に米国の国際学術誌「Ecology and Evolution」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「害虫として嫌われるムカデにも、まだ知られていない進化史があります。全国から集まった数千枚の写真を、1枚ずつ確認する作業は根気を要しましたが、2種に共通する色彩が、まったく異なる分布を示すと気付いた時には、積み重ねが発見につながる喜びを感じました。市民科学者としての皆さんの記録がなければ、この発見は不可能でした。今後も足元に広がる生物多様性の成り立ちを、ひとつひとつ解き明かしていきたいと思います。」(宇野良祐、伊與田翔太)
【DOI】
https://doi.org/10.1002/ece3.73882
【書誌情報】
Ryosuke Uno, Shouta Iyoda (2026). Untangling Colour Diversity: Ecogeographic Patterns in Two Scolopendra Species Revealed by Citizen Science. Ecology and Evolution, 16, 6, e73882.