私たちの遺伝情報は二重らせん構造を持つDNAに記録されていますが、その情報を読み解きタンパク質を合成する役割を果たすのが1本鎖のRNAです。DNAは紫外線を吸収するとその一部が化学変化を受ける(損傷する)ことが知られていますが、RNAはDNAよりも容易に紫外線で損傷を受けます。具体的には、RNAを構成するウラシルやシトシンのC=C二重結合に対して、細胞内の水分子がOHおよびH原子として化学結合する(水和)反応が起こります。水和反応の存在は1960年代から知られていましたが、そのメカニズムはいまだ解明されていませんでした。
鈴木俊法 理学研究科教授らとイタリア・ボローニア大学(University of Bologna)の共同研究グループは、DNAやRNAを構成するヌクレオシドやヌクレオチドが紫外線を吸収した後に水分子と反応する過程を超高速赤外分光法によって詳細に調べました。その結果、RNAを構成するウラシルやシトシンが紫外光を吸収すると、1000億分の1秒程度の非常に短い時間内にC=C二重結合を180度ねじった反応中間体が生成し、この中間体が水分子と反応して水和反応が起こることを明らかにしました。この水和反応は分子構造のわずかな違いによって大きな影響を受け、チミンよりもウラシル、5-メチルシトシンよりもシトシンの方が圧倒的に反応しやすいことが分かりました。この反応性の違いを計算機シミュレーションとの比較で検討した結果、攻撃を受けるC=C結合の特定の部分(C5炭素)にメチル基が結合すると、核酸塩基を取り巻く水分子との立体的な反発によって核酸塩基が変形しにくくなって中間体の生成量が減少する上に、メチル基が結合することでC=C結合の電気的な偏りが変化して化学反応性が低下することが新たに分かりました。紫外線による核酸の損傷は、紫外線による皮膚癌などの問題と関連する他、地表に達する紫外線強度が現在よりも高かった原始地球における生命誕生の謎にも関連します。研究グループは、より複雑なDNAの光損傷反応について研究を進めており、今後の研究の進展が期待されます。
本研究成果は、2026年5月4日に、国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「DNAやRNAの光化学反応は長く研究されてきましたが、損傷へ向かう反応の引き金となる中間体は、これまで見えていませんでした。今回、その中間体を捉え、核酸損傷の出発点であることを示せたのは、この分野の長年の謎を解く大きな一歩です。今後はより複雑なDNA構造へと研究を広げ、紫外線に関連するがんなどの疾患の理解にもつなげていきたいと考えています。」