T細胞の運命を安定化させる鍵分子の発見―Satb1によるFoxP3制御メカニズム―

ターゲット
公開日

 セオ・ウセオク(SEO Wooseok)医学研究科准教授、谷内一郎 理化学研究所チームリーダーらの研究グループは、免疫細胞であるT細胞の性質を安定して維持するために不可欠なDNAの働きを解明しました。 T細胞は、がんや病原体と戦う「エフェクターT細胞」と、免疫の暴走を抑える「制御性T細胞(Treg)」に分かれます。本研究では、ゲノムの立体構造を調節するタンパク質「Satb1」が、成熟したエフェクターT細胞において、Tregのマスター遺伝子である「Foxp3」が誤って働くのを防いでいることを発見しました。この抑制には、TET酵素を介したDNAのメチル化調節が関わっています。Satb1を失うと、一時的にFoxp3が作られ、免疫機能が不安定になることが分かりました。 本研究成果は、がん免疫療法におけるT細胞の不安定を防ぐ新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。

 本研究成果は、2026年5月25日に、国際学術誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」にオンライン掲載されました。

画像
2605-main-SEO.jpg
SATB1は、TET酵素(DNAメチル化のイレイサー)の働きを操ることで、FoxP3遺伝子のDNAのメチル化(me)を制御している。ヘルパーT細胞(左)においては、TET酵素の働きを抑制することで、DNAのメチル化状態を維持(FoxP3の発現がOFF)する。一方、制御性T細胞(Treg)(右)においては、TET酵素の働きを活性することで、DNAのメチル化状態を無くす(FoxP3の発現がON)。(図作成:SEO Wooseok))

研究者のコメント

「T細胞の運命が一度決まった後も、Satb1という見張りが常に目を光らせていないと簡単に細胞の性質がブレてしまうという事実は、生命システムの精巧さと危うさを示しています。JST創発的研究支援事業などの手厚い支援や、素晴らしい共同研究者の方々のおかげで、長年議論されてきた成熟T細胞におけるSatb1の本質的な機能を明らかにすることができました。この基礎的な発見が、将来的にがん免疫療法の効果を長持ちさせる新たなアプローチに繋がることを願っています。」(セオ・ウセオク)

研究者情報