私たちの体にある免疫細胞はがんを攻撃しますが、がん細胞はT細胞の表面にある「PD-1」という分子(ブレーキ役)を利用して、その攻撃から逃れてしまいます。現在の治療法はこのブレーキを外すものですが、効果が限定的な場合もあり、PD-1が作られる仕組みの根本的な解明が求められていました。
このたび、セオ ・ウセオク(SEO Wooseok) 医学研究科准教授、西川博嘉 同教授らの研究グループは、PD-1を作る遺伝子の働きを調節する「上流エンハンサー」というスイッチに着目しました。ゲノム編集技術を用いてこのスイッチを壊したマウスを作製したところ、がん組織内においてT細胞のPD-1の発現が減少することが分かりました。その結果、攻撃役のT細胞が活性化し、がんの増殖が顕著に抑えられました。一方で、過剰な免疫反応を抑える「制御性T細胞」の機能は維持されており、副作用である自己免疫疾患のような症状も見られませんでした。本研究は、PD-1を完全になくすのではなく、スイッチの操作で「適度に調整」することが安全で効果的ながん治療につながる可能性を、マウスモデルを用いて示しました。今後は、次世代の免疫療法の開発に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2026年3月27日に、国際学術誌「Immunology Letters」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「PD-1を完全に壊すのではなく、スイッチ(エンハンサー)を操作して『適度に弱める』ことで、安全かつ強力にがんを攻撃できることを証明しました 。この『調節』という新しい考え方が、将来の免疫療法をより進化させる鍵になると考えています。
免疫チェックポイント分子PD-1を単に『阻害』するのではなく、遺伝子のスイッチ(エンハンサー)を操作することでその発現を『適度に調節』するという新しいアプローチを提示しました。 この手法が、副作用を抑えつつ治療効果を最大化する、次世代のがん免疫療法の基盤となることを期待しています。」(SEO Wooseok)
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.imlet.2026.107171
【書誌情報】
Chandsultana Jerin, Wooseok Seo, Hiroyoshi Nishikawa (2026). Genetic disruption of Pdcd-1 upstream enhancer boosts T cell function and antitumor responses. Immunology Letters, 280, 107171.