坂本達也 白眉センター/人間・環境学研究科特定助教、武藤大知 人間・環境学研究科修士課程学生(研究当時)、石村豊穂 同教授、水産研究・教育機構からなる研究グループは、生まれて間もない海水魚の大陸棚上での移動経路を、個体ごとに復元する手法を開発しました。小さな仔稚魚の分散は個体群の維持やつながりを左右する重要な過程ですが、その動きを野外で直接追跡することは困難です。本研究では、魚の内耳にある耳石の高度な化学分析、海洋環境モデルおよび確率的な解析手法を組み合わせ、大陸棚環境を圧縮して断面として表現し、その中での移動を推定する、「階段チャート解析」を構築しました。この手法を東シナ海のマアジに適用した結果、深さ方向と沖合・沿岸方向の移動を同時に推定することに成功しました。その結果、成長の速い個体は沿岸側に移動して滞留し、他の個体は黒潮流路内にとどまり北方へ輸送されるなど、複数の分散戦略の存在が明らかになりました。これらの結果は、魚が流されるだけでなく、自らの行動によって移動範囲を調整している可能性を示唆します。本手法は魚類の初期分散過程の理解を前進させ、水産資源変動の仕組みの解明に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2026年4月30日に、国際学術誌「Fisheries Oceanography」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「この研究は、私の5年間の研究の集大成です。全くのゼロからスタートし、試行錯誤を重ね、多くの方々のご協力のもと、論文として発表できたことを大変嬉しく思います。この研究を通し、プログラミングや海洋環境モデルといった未知の分野の知識を習得することができたことは非常に刺激的で面白い経験でした。本研究成果が、未だ謎の多い魚類の生態解明に貢献し、美味しいマアジの保全に繋がることを心より願っております。」 (武藤大知)
「魚の経験した水温履歴がわかる耳石の高解像度同位体分析は、世界でも石村研究室以外では実現が難しい高度な分析ですが、実はそのデータの解釈も工夫が要ります。今回の舞台である東シナ海では沖合を流れる黒潮に沿って同じ水温帯が形成されているので、経験水温がわかっても黒潮が流れる方向の分布位置を決めることができません。そこでその方向を諦め、黒潮を横切る断面方向にのみ注目したところ、逆にマアジの動きが綺麗に見えるようになりました。」(坂本達也)