多くの植物は一つの花の中に雄しべと雌しべをもちますが、一部の植物は雄株と雌株に分かれていることが知られています。
工藤葵 農学研究科助教、寺内良平 同特命教授らの共同研究グループは、日本に広く分布する野生植物オニドコロにおいて、雄株と雌株を決定する性決定機構を解明しました。
雄株と雌株に分かれている植物は、被子植物の約6%を占めており、雌雄異株植物と呼ばれます。雌雄異株植物では、一般に性染色体の組み合わせにより雄株か雌株かを決めていることが知られており、XY性決定型(XYが雄・XXが雌)やZW性決定型(ZZが雄・ZWが雌)といった多様な性決定様式が報告されています。
本研究で対象としたオニドコロが属するヤマノイモ属は、約630種からなる分類群で、ほとんどの種が雌雄異株であることが知られています。さらに、この属ではXY性決定型やZW性決定型を含む多様な性決定様式が報告されており、性決定様式の進化の多様性を理解するうえで重要な分類群です。しかし、これまで性染色体上のどの遺伝子が雌雄の決定に関与しているのかは明らかになっていませんでした。
本研究では、まずオニドコロの交配集団を用いた連鎖解析により、本種がXY性決定型の性決定様式をもつことを明らかにしました。さらに、X染色体とY染色体を含む参照ゲノムの構築と遺伝子発現解析により、Y染色体に座乗する2つの遺伝子BLH9とHSP90が、性決定に関与している可能性が高いことを明らかにしました。
本研究成果は、2026年4月20日に、国際学術誌「PLOS Genetics」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「野外で植物を観察しているとしばしば雄株と雌株に分かれた植物がいることに気づきますが、その雌雄がどのように決まっているかはほとんどの野生植物でわかっていません。本研究では、日本に広く分布するオニドコロの交配集団と野外集団を対象に、ゲノム解析を用いて雌雄を決める性決定機構を明らかにしました。また、近縁種との比較によりオニドコロが属するヤマノイモ属では、種ごとに独立に性決定領域が進化してきた可能性が示唆されました。今後も、野外調査やより幅広い種でのゲノム解析を通して、植物における性決定機構の解明を進めたいと考えています。」(工藤葵)
「オニドコロは、ジネンジョ掘りに出かけた人が間違えて掘ってしまうことがある植物です。日本に広く分布し、古来よりその塊茎『ところ』は食用に利用されてきました。源氏物語や狂言にも登場する日本文化に関わりの深い植物を材料にした独自性の高い研究成果です。生物進化において、性の果している役割は極めて重要です。今後、ヤマノイモ属の他の種に調査をひろげることで、性決定の進化の解明が期待されます。」(寺内良平)
【DOI】
https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1012123
【書誌情報】
Aoi Kudoh, Satoshi Natsume, Yu Sugihara, Hiroaki Kato, Akira Abe, Kaori Oikawa, Motoki Shimizu, Kazue Itoh, Mai Tsujimura, Yoshitaka Takano, Toshiyuki Sakai, Hiroaki Adachi, Atsushi Ohta, Mina Ohtsu, Takuma Ishizaki, Toru Terachi, Hideki Innan, Ryohei Terauchi (2026). Whole-genome sequencing reveals a possible molecular basis of sex determination in the dioecious wild yam Dioscorea tokoro. PLOS Genetics, 22, 4, e1012123.