致死性脳炎を引き起こすボルナ病ウイルス1型の基本構造を解明―近縁の病原性ウイルスの理解にも繋がる発見―

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 ボルナ病ウイルス1型(BoDV-1)は、ヒトや動物の命に関わる重い脳炎を引き起こすことがあるウイルスです。このウイルスは、エボラウイルスや麻疹ウイルス、狂犬病ウイルスなど、世界的に重要な感染症を引き起こすウイルスと同じ「モノネガウイルス目」と呼ばれるグループに属しています。こうしたウイルスでは、遺伝情報であるRNAと、それを包む核タンパク質が結合した複合体が、ウイルスが増殖するための鍵となっています。しかし、ボルナウイルス科では、この複合体がどのような形をしているのか、長年にわたって解明されていませんでした。

 杉田征彦 医生物学研究所准教授(兼:生命科学研究科准教授)、後藤真也 生命科学研究科博士後期課程学生、藤原拓朗 医学研究科博士課程学生、朝長啓造 医生物学研究所教授(兼:医学研究科教授)、野田岳志 同教授(兼:生命科学研究科教授)らの研究グループは、平井悠哉 大阪歯科大学講師、堀江真行 大阪公立大学教授らと共同で、クライオ電子顕微鏡法を用いた構造解析により、BoDV-1の核タンパク質–RNA複合体の立体構造を高解像度で明らかにしました。ボルナウイルス科において核タンパク質-RNA複合体の構造が解明されたのは本研究が初めてです。

 本研究は、BoDV-1が増殖する仕組みについての理解を深めるとともに、核タンパク質とRNAの相互作用部位を標的とする薬の開発につながることが期待されます。また、モノネガウイルス目に属する近縁ウイルスとの比較を通じて、ウイルスの進化の理解にもつながると考えられます。

 本研究成果は、2026年4月10日に、国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

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本研究の概念図:多数の複合体状態から、核タンパク質-RNA複合体の構造を見出した。©杉田征彦

研究者のコメント

「ボルナウイルスは決してよく知られたウイルスではありませんが、ヒトに感染するモノネガウイルスの中で、その基本構造が最後まで未解明のまま残されていた重要な研究対象でした。本研究で得られた知見は、ボルナウイルス研究だけでなく、RNAウイルス研究全体に新たな視点をもたらす可能性があると期待しています。ヒトだけでなく、動物や植物、真菌に感染する近縁ウイルスも含めた包括的な『ワンヘルス(One Health)』の視点からも、基礎ウイルス学研究の重要性は今後さらに高まると考えています。」(杉田征彦)

「ボルナウイルスのN–RNA複合体の構造解明は、ボルナウイルスの研究に着手した当初からその重要性を認識し、長年達成したいと考えてきた研究課題でした。今回、異なる専門性をもつ研究者が連携・協調することでこの研究課題を成し遂げることができたことを、率直にうれしく思っています。本成果は、ボルナウイルスの理解や創薬応用にとどまらず、RNAウイルス全体の理解にも貢献すると考えています。」(平井悠哉)

「ボルナウイルスはその特異な性質から、病原体としてだけでなく、生物学的・進化生物学的にも非常に重要な研究対象ですが、いまだ謎の多いウイルスです。本研究の成果は、ボルナウイルスの性質を決定づける分子機構の解明にも有用であると考えられ、ウイルス学のみならず、多様な分野へと波及効果があると考えています。また、得意とする研究分野が異なる同世代の中堅研究者3人が中心となって研究を進められ、とてもよい共同研究になったと自負しています。」(堀江真行)

研究者情報
研究者名
Shinya H. Goto
研究者名
Takuro Fujiwara
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1126/sciadv.aeb0835

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/300234

【書誌情報】
Yukihiko Sugita, Yuya Hirai, Shinya H. Goto, Takuro Fujiwara, Keizo Tomonaga, Takeshi Noda, Masayuki Horie (2026). Structure and assembly of Borna disease virus 1 nucleoprotein-RNA complexes. Science Advances, 12, 15, eaeb0835.