脳の負荷、心拍で可視化―心拍のゆらぎのカオス解析から脳活動の影響を示唆―ストレス評価や心不全の早期兆候検出への応用可能性

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 梅野健 情報学研究科教授、真尾朋行 同社会人博士課程学生(現:東芝情報システム株式会社マーケティング・商品企画担当スペシャリスト)、奥富秀俊 東芝情報システム株式会社マーケティング・商品企画担当チーフエンベデッドスペシャリストの研究グループは、心拍のゆらぎ(心拍変動)をカオス理論に基づく新しい指標で解析し、心拍のゆらぎの中に脳活動の影響が現れている可能性を示しました。健康な被験者を対象に、安静、立位、認知課題(暗算・パズル)の条件で心拍データを比較したところ、認知課題において、カオス・複雑系指標が有意に増加しました。本成果は、心拍という容易に測定できる生体信号から、脳の負荷や精神状態の影響を間接的に読み取れる可能性を示すものです。将来的にはストレス状態の客観的評価、過労による健康リスクの早期把握、心不全の早期兆候検出などへの応用が期待されます。

 本研究成果は、2026 年3月24日に、国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント

「『生きている状態とは何か』を捉えることは、科学にとって大きな課題の一つです。心臓と脳がネットワークとしてつながっているという考え方は以前からありましたが、本研究では、心拍変動に見られる“カオス的なゆらぎ”が、その関係を理解する重要な手がかりになる可能性を示しました。今回の成果が示唆するのは、カオスを単なる複雑さとして見るのではなく、生体状態を読み解くための指標として積極的に活用できる可能性です。今後は、ストレスチェックや健康状態の評価といったヘルスケアへの応用に加え、ストレスに起因する心不全などの早期兆候把握につながる可能性についても検証していきたいと考えています。」(梅野 健)

「人間の内面の状態を直接捉えることは容易ではありませんが、ストレスや疲労などを客観的に評価したいというニーズはますます高まっています。本研究では、ウェアラブルセンサーなどで取得可能な心拍データを解析することで、脳活動の影響を間接的に推定できる可能性を示しました。特に、心拍と脳活動の関係を“カオス”という新しい視点から捉えた点に本研究の独自性があります。今後は、医療やヘルスケア分野への応用を見据え、日常的に心身の状態を把握し、人々の健康維持や安全向上に貢献できる技術へと発展させていきたいと考えています。」(真尾朋行)

「生命を支える『心臓』と、人間の高次機能を担う『脳』との間に、新たなつながりを示唆する知見が得られたことを大変興味深く感じています。私たちが健康に暮らしていくためには、身体の健康だけでなく心の健康も重要ですが、心の状態を客観的に把握する手段はまだ限られています。本研究成果は、心拍のカオス解析に基づいて心身の状態を知る新しい技術につながる可能性があります。今後は、この仮説を生理学・医学・数理科学のそれぞれの視点から検証し、技術開発を通じて社会に役立つ形へと発展させていきたいと考えています。」(奥富秀俊)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41598-026-43385-z

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/300014

【書誌情報】
Tomoyuki Mao, Hidetoshi Okutomi, Ken Umeno (2026). Chaotic fluctuations mark the sign of mental activity in task-based heart rate variability. Scientific Reports, 16, 9221.

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