制御性T細胞(Treg)は、自己免疫疾患などの過剰な免疫反応を抑制し免疫系のバランスを維持するものですが、一方、がんでは、腫瘍組織に強く集積し、抗腫瘍免疫を抑制してがんの進展を促進します。この腫瘍に浸潤したTreg(Tumor Infiltrating Treg: TI-Treg)は、活性化を起こす分子を多様に発現し免疫を強く抑制するのが特徴です。この腫瘍に浸潤したTregに特徴的な表現型(TI-Treg Phenotype)は、ヒトの様々ながんでステージによらず見られ、マウスなどの実験的腫瘍でも観察されることから、腫瘍微小環境にはがんの種類を超えて共通のTreg活性化メカニズムが存在すると考えられていましたが、その本体は不明なままでした。これが解明され、この過程を阻害する薬物が見つかれば、がんの免疫療法の一つとして効果があるものと期待されます。
成宮周 医学研究科特任教授、松浦竜真 同博士課程学生らの研究グループは、大阪大学および京都大学の坂口志文教授研究室と共同で、生理活性脂質のプロスタグランジン(PG)E2 が、腫瘍内の環境因子の一つとして、Treg自身のPGE受容体EP2/EP4サブタイプに作用してTI-Tregに特徴的な表現型を獲得させ、抗腫瘍免疫をより強く抑制して腫瘍の進展を助長していることを解明し、EP4阻害薬がこの過程を抑制することを示しました。現在、EP4阻害薬の固形癌に対する臨床試験が世界各国で進行中であり、本研究の知見は、これらの治療応用を加速させると考えられます。
本研究成果は、2025年12月4日に、国際学術誌「PNAS(米国科学アカデミー紀要)」にオンライン掲載されました。
補足情報用 見出し
「今回の論文では、腫瘍(がん)の中で制御性T細胞(Treg)がどのように活性化されるのかを分子レベル明らかにしました。腫瘍ではTregはがんに対する免疫を抑える悪者ですが、自己免疫疾患た慢性炎症では、過剰な免疫を抑える役割が期待されています。そのことから、今回腫瘍で分かったメカニズムを、自己免疫疾患や慢性炎症に対する新たな治療として利用できる可能性があります。本研究の成果が、こうした病気の理解と治療法開発の一助となることを期待しています。」(成宮周)
【DOI】
https://doi.org/10.1073/pnas.2424251122
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/299063
【書誌情報】
Ryuma Matsuura, Siwakorn Punyawatthananukool, Ryoji Kawakami, Norihisa Mikami, Shimon Sakaguchi, Shuh Narumiya (2025). Prostaglandin E₂-EP2/EP4 signaling induces the tumor-infiltrating Treg phenotype for tumor growth. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 122, 49, e2424251122.
京都新聞(2025年12月2日 24面)、日刊工業新聞(2026年1月21日 31面)に掲載されました。