物体に力を加えて歪ませることで、電気的性質を大きく変化させることができます。最近、ピエゾ素子を用いた装置で、ピエゾ素子に加える電圧によって試料のひずみを制御する技術が格段に進歩しました。特に一方向の歪では、物質の対称性を変化できるので、性質の大きな変化も生み出せます。その典型例として、量子物質の非従来型の超伝導体であるルテニウム酸化物Sr2RuO4では、一方向のひずみで超伝導が起こる温度が倍増することが知られています。
ジョルダーノ・マットニ 高等研究院豊田理研-京大連携拠点(TRiKUC)特定助教、トーマス・ジョンソン 同博士研究員、前野悦輝 同連携拠点教授(豊田理化学研究所フェロー)らの研究グループは、「せん断ひずみ」を超伝導体に加える新たなアプローチで、長年の謎であるSr2RuO4の超伝導状態の本質に関する新たな進展をもたらしました。ルテニウム酸化物の超伝導転移温度は、均質ひずみや一方向のひずみに対して、それぞれ大きな変化を示すことがわかっていました。本研究によって、せん断ひずみが超伝導転移にほとんど影響を与えないことが明らかになり、二成分超伝導という特異な超伝導状態では説明できないことがわかりました。本研究で新たに開発した「せん断ひずみ」で物質の性質の本性を絞り込む手法は、今後、様々な量子物質の研究にも応用される期待が持てます。
本研究成果は、2025年12月16日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「ルテニウム酸化物Sr₂RuO₄の『隠れた対称性』をせん断ひずみで探る実験は、極めて薄い結晶に精密なひずみを加える必要があり、大変な試行錯誤の連続でした。初めて超伝導転移温度がほとんど変化しないことを確認できたとき、長年の論争に一石を投じられる手応えを感じました。この手法は今後、他の量子物質研究にも応用可能で、物性物理学の理解を深める新たな道を切り拓けると期待しています。」(ジョルダーノ・マットニ)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-025-67307-1
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/299023
【書誌情報】
Giordano Mattoni, Thomas Johnson, Atsutoshi Ikeda, Shubhankar Paul, Jake Bobowski, Manfred Sigrist, Yoshiteru Maeno (2026). Direct evidence for the absence of coupling between shear strain and superconductivity in Sr₂RuO₄. Nature Communications, 17, 700.