禁酒・節酒が食道粘膜の前がん状態を改善し、食道および頭頸部の発がんを予防することを世界ではじめて明らかにした―アルコール発がん予防の新たな指標―

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 「がん」を予防することは、誰もが望む世界的な課題です。食道がんや頭頸部がんは、早期発見できれば内視鏡治療などの方法で臓器温存で治すことができる一方、残った臓器に新たにがんが発生することが知られており、「領域発がん現象」として知られています。多発性にがんが発生することは、生命予後や生活の質に悪影響を及ぼすため、再発の予防が必要です。ヨード色素内視鏡検査を行うと、食道粘膜の前がん病変である異型上皮はヨード不染帯として視認されます。

 武藤学 医学研究科教授、堅田親利 同特定准教授、堀圭介 岡山大学医員(現:一宮西病院副部長)らの研究グループは、日本食道コホート試験(Japan Esophageal Cohort [JEC] 試験)を通して、食道粘膜の多発性のヨード不染帯は、その発生に飲酒が強く関連し、食道や頭頸部の発がんリスクに強く関連することを報告してきました。JEC試験は、食道扁平上皮がんの内視鏡切除後に禁酒・禁煙指導を実施し、6か月毎の上部消化管内視鏡検査と12か月毎の耳鼻咽喉科診察を継続しながら経過観察する前向きコホート研究です。この研究に登録された232症例を検討したところ、68.1%の症例が禁酒・節酒に成功し、そのうち10.8%の症例で食道粘膜のヨード不染帯の程度が改善しました。禁酒・節酒を継続したひとは禁酒・節酒できなかったひとに比べて約8.5倍の頻度でヨード不染帯の程度が改善し、さらに食道がん、頭頸部がんの発生割合を80%抑制しました。この成果は、食道がん、頭頸部がんの多発発生は、禁酒・節酒をすることで前がん病変が減少し、多発性の発がんを抑制することを世界で初めて臨床的に明らかにするとともに、食道および頭頸部の発がん予防に活用されることが期待されます。

 本研究成果は、2023年12月9日に、国際学術誌「Esophagus」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント

「本研究は、明らかな危険因子であるアルコール摂取を抑制することで食道内の前がん病変を減少させ、食道のみならず頭頸部の発がん抑制に繋がることを世界で初めて示したものであり、今後の予防医療への応用が期待されます。今回は、内視鏡治療が実施された早期の食道扁平上皮がん患者さんを対象としたものですが、飲酒は食道がんや頭頸部がんに罹患していないひとにも明らかな危険因子であることから、禁酒・節酒が食道がんや頭頸部がんの抑制に効果を示す可能性を示したとも言えます。食道粘膜のヨード不染帯の程度は、発がんのリスクを予測するバイオマーカーとして報告してきましたが、予防効果の指標になることを示した点では画期的な発見であるといえます。」

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1007/s10388-023-01033-9

【書誌情報】
Keisuke Hori, Chikatoshi Katada, Hiroyuki Okada, Atsushi Katagiri, Yasumasa Matsuo, Tetsuji Yokoyama, Tomonori Yano, Haruhisa Suzuki, Yuichi Shimizu, Yasuaki Furue, Hiroyoshi Nakanishi, Tomoyuki Koike, Kohei Takizawa, Motohiro Hirao, Takako Yoshii, Takenori Yamanouchi, Hirofumi Kawakubo, Nozomu Kobayashi, Tadakazu Shimoda, Atsushi Ochiai, Hideki Ishikawa, Akira Yokoyama, Manabu Muto (2023). Association between continuous cessation or reduction of drinking alcohol and improvement of multiple dysplastic lesions in patients with esophageal squamous cell carcinoma after endoscopic resection. Esophagus.

メディア掲載情報

朝日新聞デジタルに掲載されました。