昆虫に共生する細菌のなかには、オスだけを殺してしまうものが知られています。この「オス殺し」は共生細菌による生殖操作のひとつで、近年になって原因となる細菌由来の因子、いわゆる「オス殺し毒素」の存在が明らかになってきました。例えばショウジョウバエの共生細菌スピロプラズマは、オス殺し毒素タンパク質 Spaid(Spiroplasma androcidin)をオスだけに作用させることで、ほぼすべてのオスを殺してしまいます。
春本敏之 白眉センター/生命科学研究科特定助教は、Spaid タンパク質が分解から自身を守り、宿主であるショウジョウバエ細胞のなかで安定的に存在するしくみを明らかにしました。この「自己安定化」の機能を失わせると、Spaid は細胞内で分解され、結果としてオス殺しはほぼ起きなくなります。また、この自己安定化は、Spaid タンパク質同士が互いに相手を安定化させることで実現されていました。オス殺し毒素が分解されにくいのであれば、共生細菌はコストパフォーマンスよくオスを殺すことができます。今回の発見は、農業・衛生害虫を低コスト・低環境負荷で制御するための技術の創出につながると期待されます。
本研究成果は、2023年9月5日に、国際学術誌「Current Biology」にオンライン掲載されました。
「共生微生物が引き起こす、不思議な生命現象である生殖操作に魅了されて研究を続けてきました。共生微生物の多くは培養ができない等、実験上の困難は尽きません。しかし、生殖操作の背景にある実に洗練されたしくみを垣間見て感動するたびに、それまでの苦労はみんな吹き飛んでしまいます。」(春本敏之)
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.08.032
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/287353
【書誌情報】
Toshiyuki Harumoto (2023). Self-stabilization mechanism encoded by a bacterial toxin facilitates reproductive parasitism. Current Biology, 33(18), 4021-4029:e6.