テラヘルツ波とスピン振動の高効率な結合による巨大スピン応答の観測―超高速スピントロニクス応用への期待―

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 廣理英基 化学研究所准教授、金光義彦 同教授、章振亜 同博士後期課程学生、森山貴広 同准教授、関口文哉 同特定助教、向井佑 工学研究科特定助教、陰山洋 同教授、田中耕一郎 理学研究科教授、古谷峻介 東京大学特任研究員、佐藤正寛 千葉大学教授、佐藤琢哉 東京工業大学教授、山本隆文 同准教授らの研究グループは、入射するテラヘルツ磁場強度を物質内部で約200倍増強させる技術を開発し、スピンを大振幅で励起し、スピン運動の非線形性の観測に成功しました。

 近年、次世代コンピューティングや情報処理技術の候補として、従来の電子デバイスで用いられる電子に加えスピンを情報担体とする手法が検討されています。このため、物質中のスピンの運動を光によって効率的に励起・制御する方法やそのスピン運動の理解が重要な課題になっています。特に、テラヘルツ周波数帯で高速に振動するスピンを持つ反強磁性体は高速なデバイス動作において有望であると考えられ、テラヘルツ波励起によるスピン制御が求められていました。本研究では、螺旋状の金属メタマテリアル構造を反強磁性体HoFeO3に作製し、試料中に最大で2テスラのテラヘルツ磁場を発生させ、巨大なスピン振動による非線形な応答を観測しました。

 今回開発した高効率にテラヘルツ波を捕集し巨大な磁化変化を誘起する方法は、スピンダイナミクスの理解を深め、超高速な磁化スイッチ、テラヘルツ波/スピン変換機など、超高速スピントロニクス技術へ応用されることが期待されます。

 本研究成果は、2023年3月31日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
テラヘルツ磁場パルスによるスピン振動の励起により、スピン振動の非線形な周波数成分(第二高調波成分(青色)、第三高調波成分(紫色))が生じる様子を示す概念図
研究者のコメント

「『光による物性制御、及び新規な物性の創発』は光物性物理分野の究極の目標の一つです。私たちは、固体物性を特徴づける素励起をテラヘルツ波によって駆動することにより、物性を制御することを目標の一つにしています。今回の研究成果はテラヘルツ波により磁性体中のスピンを大振幅で駆動し、非線形なテラヘルツ応答を発現させたものです。今後も光やテラヘルツ駆動により、応用的にも重要な新現象を発見していきたいと思います。」(廣理英基)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-023-37473-1

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/281545

【書誌情報】
Zhenya Zhang, Fumiya Sekiguchi, Takahiro Moriyama, Shunsuke C. Furuya, Masahiro Sato, Takuya Satoh, Yu Mukai, Koichiro Tanaka, Takafumi Yamamoto, Hiroshi Kageyama, Yoshihiko Kanemitsu, Hideki Hirori (2023). Generation of third-harmonic spin oscillation from strong spin precession induced by terahertz magnetic near fields. Nature Communications, 14:1795.