異常金属における超低速臨界電子電荷ゆらぎの観測に成功‐異常金属状態解明の手がかりに‐

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 瀬戸誠 複合原子力科学研究所教授、小林寿夫 兵庫県立大学教授、中辻知 東京大学教授、依田芳卓 高輝度光科学研究センター主幹研究員、玉作賢治 理化学研究所チームリーダー、P. Coleman Rutgers大学教授の研究グループは、大型放射光施設「SPring-8」のビームラインBL09XUおよびBL19LXUにおける高輝度X線を利用したメスバウアー吸収分光法により、量子物質超伝導体β-YbAlB4 の異常金属相における超低速臨界的電荷揺らぎを観測することに初めて成功しました。

 量子物質の局在化の近傍で発生する異常金属状態で観測される現象を理解するためには、基盤となる電子電荷の揺らぎ(ダイナミックス)を調べる必要があります。電子と原子核の相互作用を測定するメスバウアー吸収分光法を用いて、温度と圧力の関数として、β-YbAlB4の異常金属相の電荷揺らぎを調べました。フェルミ液体状態での単一吸収ピークは、異常金属状態において2つのピークに分裂することが分かりました。このスペクトルの変化は、ポーラロンの形成により長い時間スケールで揺らぐ電子電荷の影響で、単一原子核遷移が変調された結果として解釈されます。この超低速臨界的電子電荷揺らぎの観測は、異常金属状態と超伝導発現の起源に新たな知見を提供します。

 本研究成果は、2023年3月2日に、「Science」誌にオンライン掲載されました。

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(上図)放射光メスバウアー分光測定を行うためのビームライン構成。
(下図)Ybイオンの異なる価数状態での174Yb原子核のエネルギー準位と価数揺動によるスペクトルの変化の模式図
研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1126/science.abc4787

【書誌情報】
Hisao Kobayashi, Yui Sakaguchi, Hayato Kitagawa, Momoko Oura, Shugo Ikeda, Kentaro Kuga, Shintaro Suzuki, Satoru Nakatsuji, Ryo Masuda, Yasuhiro Kobayashi, Makoto Seto, Yoshitaka Yoda, Kenji Tamasaku, Yashar Komijani, Premala Chandra, Piers Coleman (2023). Science, 379(6635), 908-912.