麻疹(はしか)ウイルスが「協力」して脳炎を引き起こす仕組みを解明-新規治療薬の開発やウイルス共通の進化メカニズム解明に期待-

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 麻疹ウイルスは発熱と全身性の発疹を特徴とする麻疹(はしか)の原因ウイルスです。まれに脳に感染し、数年後に致死性の脳炎(亜急性硬化性全脳炎、Subacute sclerosing panencephalitis、SSPE)を引き起こしますが、本来、麻疹ウイルスは脳で増殖する能力を持ちません。したがって、麻疹ウイルスがどのように脳炎を発症させるのかは不明であり、そのメカニズムの解明が望まれていました。

 今回、麻疹ウイルスが神経での増殖能を獲得して脳炎を引き起こす、新たな進化の仕組みが解明されました。

 橋口隆生 医生物学研究所教授、鈴木干城 同助教、白銀勇太 九州大学助教、原田英鷹 同学生、柳雄介 長崎大学教授らの研究グループは共同で、脳炎に由来する麻疹ウイルスの膜融合(F)遺伝子の解析を行いました。その結果、変異Fタンパク質と正常Fタンパク質の相互作用(協力または干渉)がウイルスの神経増殖能を決める重要なファクターであることをつきとめ、新たなウイルス進化メカニズムを明らかにしました。

 今回の発見はFタンパク質の相互作用を標的としたSSPE治療薬の開発や、細胞への侵入に膜融合タンパク質を用いるウイルス(新型コロナウイルス、ヘルペスウイルスなど)に共通する進化メカニズムの解明に役立つことが期待されます。

 本研究成果は、2023年1月28日に、オンライン科学雑誌「Science Advances」に掲載されました。

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変異Fタンパク質が、正常Fタンパク質による干渉を克服して細胞融合を起こす2つの方法とは?
研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1126/sciadv.adf3731

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/278997

【書誌情報】
Yuta Shirogane, Hidetaka Harada, Yuichi Hirai, Ryuichi Takemoto, Tateki Suzuki, Takao Hashiguchi, Yusuke Yanagi (2023). Collective fusion activity determines neurotropism of an en bloc transmitted enveloped virus. Science Advances, 9(4):eadf3731.

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