細胞の集まりからリーダーが生まれる仕組み―出る杭はより出る―

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 皮膚に傷がつくと、傷に面した細胞がリーダーとしての機能を獲得し、他の表皮細胞を牽引することで修復を行います。しかし、元々は均質な細胞集団から傷に面した細胞だけがリーダーとなる機構は未解明でした。

 日野直也 生命科学研究科特定助教(現:IST Austria博士研究員)、松田道行 同教授らの研究グループは、蛍光顕微鏡技術を駆使して細胞が傷口に向かって足を伸ばすことでリーダーとしての機能を獲得することを発見しました。傷口に仮足と呼ばれる足を伸ばした細胞は肝細胞増殖因子(HGF)に対する感受性が上がり、このHGFは細胞の移動を司るERKと呼ばれる分子の活性化を介してさらに仮足の形成を促進します。こうして大きな仮足を形成した細胞は持続的なERK活性化を示し、リーダーとしての機能を獲得することが分かりました。

 本研究により、増殖因子などの生化学的な因子のみならず、足を伸ばす空間という物理的な因子も細胞制御に重要であることを示しました。こうした生化学的・物理的因子の相互作用は細胞の移動のみならず多様な発生・再生現象で重要であると考えられ、本研究で得られた知見は今後、医療や組織工学などの幅広い分野への応用が期待されます。

 本研究成果は、2022年9月28日に、国際学術誌「Developmental Cell」にオンライン掲載されました。

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傷口に向かって足を伸ばした細胞がリーダーになり、他の細胞を牽引することで傷が治癒する

研究者のコメント

「本研究では、リーダー細胞が出現する基本的な仕組みを明らかにしましたが、仮足を伸ばすとHGFへの感受性が上昇する機構は謎のままです。一般的にはHGFなどの増殖因子は細胞膜上の受容体を活性化させます。細胞が仮足を伸ばすとこの活性化が促進されるのか、もしくは全く異なる機構での制御が存在するのか、まだまだ未解明なことが山積みであり、今後の研究で明らかにしていきたいです。」(日野直也)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.devcel.2022.09.003

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/276639

【書誌情報】
Naoya Hino, Kimiya Matsuda, Yuya Jikko, Gembu Maryu, Katsuya Sakai, Ryu Imamura, Shinya Tsukiji, Kazuhiro Aoki, Kenta Terai, Tsuyoshi Hirashima, Xavier Trepat, Michiyuki Matsuda (2022). A feedback loop between lamellipodial extension and HGF-ERK signaling specifies leader cells during collective cell migration. Developmental Cell, 57(19), 2290-2304:e7.

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