「AIによる筋病理判読アルゴリズム」の開発 -深層学習を用いてAUC0.996の判別精度を達成-

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  松田文彦 医学研究科教授は、大久保真理子 国立精神・神経医療研究センター研究員、西野一三 同部長、壁谷佳典 日本IBM株式会社データサイエンティスト、高野敦司 同パートナー(研究当時)らと共同で人工知能(AI)を利用した筋病理標本判読アルゴリズムを世界で初めて開発しました。これは筋病理診断における将来的なAI実装に向けた技術基盤を提供するものです。

 筋疾患は筋肉の異常により筋力低下や筋萎縮を引き起こす疾患の総称であり、その診断には患者から採取した骨格筋に対する病理学的検査(以下、筋病理診断)が、重要な役割を果たしています。しかし、すべての筋疾患は患者数の少ない希少疾患であることから、世界的に専門家も少なく、筋病理診断を正確に行える専門医は極めて限られます。

 筋疾患は、主に筋ジストロフィーに代表される先天的な遺伝性筋疾患と筋炎に代表される後天的な非遺伝性筋疾患に分けられます。筋炎は、治療法が確立されていることから、病理検査による正確な診断がつけば治癒が可能です。しかし筋炎と遺伝性筋疾患の病理的所見はしばしば酷似しており、専門医でも診断が難しいことがあります。

 そこで本研究では、AI技術のひとつである深層学習を用いて、筋病理画像から筋炎であるか否かを判別する筋炎判別モデルの構築を試みました。モデルの訓練および評価するための画像は、NCNPで保管されているヘマトキシリン・エオジンで染色された病理検体 1400検体を用いて作製しました。結果として訓練されたモデルは、AUC 0.996の判別精度を達成し、この結果は専門医に匹敵します。さらには、筋炎4種の分類および遺伝性筋疾患7種の分類も技術的に可能であることを示しました。これらの結果は、AIによる筋病理診断への道を拓くものです。

 本研究成果は、2021年10月2日に、国際学術誌「 Laboratory Investigation 」のオンライン版に掲載されました。

アルゴリズム開発アプローチ概要
図:アルゴリズム開発アプローチ概要
研究者情報
書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.1038/s41374-021-00647-w

Yoshinori Kabeya, Mariko Okubo, Sho Yonezawa, Hiroki Nakano, Michio Inoue, Masashi Ogasawara, Yoshihiko Saito, Jantima Tanboon, Luh Ari Indrawati, Theerawat Kumutpongpanich, Yen-Lin Chen, Wakako Yoshioka, Shinichiro Hayashi, Toshiya Iwamori, Yusuke Takeuchi, Reitaro Tokumasu, Atsushi Takano, Fumihiko Matsuda, Ichizo Nishino (2022). Deep convolutional neural network-based algorithm for muscle biopsy diagnosis. Laboratory Investigation, 102(3), 220–226.