ブラックホールは極めて強い重力を持ち、光さえも脱出できない天体です。ブラックホールが何らかの影響を受けて揺れ動くと、「準固有振動」と呼ばれる特有の振動パターンの重力波を発します。例えば、ブラックホール同士が衝突すると、地球でも観測できるほど大きな重力波が放射されることがあり、ブラックホールの質量や形を知る手掛かりになります。合体したブラックホールがゆらぎながら小さくなる際、重力波は振動が急速に減衰しますが、この性質を体系的に記述することは複雑なため、より厳密な手法が望まれていました。
大宮英俊 理学研究科特定助教、大下翔誉 白眉センター/基礎物理学研究所特定助教、宮地大河 大阪公立大学特別研究員、難波亮 理化学研究所上級研究員らの研究グループは、数学的な技法である「完全WKB解析」を取り入れることで、急速に減衰するブラックホールの準固有振動の周波数構造を、体系的かつ精密に捉えることができる手法を示すことに成功しました。本研究結果により、さまざまな理論モデルにおけるブラックホールの重力波信号を、より厳密に解析できるようになり、今後の重力波観測の精度向上や、ブラックホールの正確な性質検証に結びつくことが期待されます。
本研究成果は、2025年6月24日に、国際学術誌「Physical Review D」にオンライン掲載されました。さらに本論文は、同誌の「Editors' Suggestion」(注目論文)に選定されました。

【DOI】
https://doi.org/10.1103/1gmr-9f1g
【書誌情報】
Taiga Miyachi, Ryo Namba, Hidetoshi Omiya, Naritaka Oshita (2025). Path to an exact WKB analysis of black hole quasinormal modes. Physical Review D, 111, 12, 124045.