統合失調症に関わるドパミン受容体の構造解明 -副作用を抑えた薬の迅速な探索・設計が可能に-

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 林到炫 医学研究科助教、岩田想 同教授(兼・理化学研究所グループディレクター)、島村達郎 同特定講師らの研究グループは、井上飛鳥 東北大学准教授、南後恵理子 同教授(兼・理化学研究所客員研究員)、登野健介 高輝度光科学研究センターグループリーダーらと共同で、ドパミンD2受容体の立体構造を、X線自由電子レーザー(XFEL)を用いて解明しました。

 ドパミンD2受容体は、ドパミンにより活性化されて情報伝達を行います。ドパミンは、運動調節や意欲・学習などに関わる脳内の神経伝達物質です。脳内のドパミン量が不足するとパーキンソン病になり、過剰になると統合失調症になると考えられています。統合失調症の治療薬はドパミンD2受容体に結合して不活性化します。これらの薬には、近縁の受容体にも作用することで生じる体重増加、眠気、口の渇きなどの副作用が知られています。本研究により、ドパミンD2受容体に薬が結合する部分(ポケット)は、大きく異なる二つの形をとりうることが分かりました。また、ポケットの近くにドパミンD2受容体に特有の空洞が存在することがわかりました。薬が結合するポケットの構造情報は、合理的な新薬の探索・設計に役立ちます。今後は、本研究で解明されたドパミンD2受容体の構造情報を基に、より有効性が高く副作用の少ない治療薬の迅速な開発が可能になると期待されます。

 本研究成果は、2020年12月22日に、国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました。

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図:(左)脳内ドパミンの働き及びその関連疾患、(右)本研究により明らかになったドパミンD2受容体の立体構造と抗精神薬スピペロンの結合様式
書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-020-20221-0

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/259945

Dohyun Im, Asuka Inoue, Takaaki Fujiwara, Takanori Nakane, Yasuaki Yamanaka, Tomoko Uemura, Chihiro Mori, Yuki Shiimura, Kanako Terakado Kimura, Hidetsugu Asada, Norimichi Nomura, Tomoyuki Tanaka, Ayumi Yamashita, Eriko Nango, Kensuke Tono, Francois Marie Ngako Kadji, Junken Aoki, So Iwata & Tatsuro Shimamura (2020). Structure of the dopamine D2 receptor in complex with the antipsychotic drug spiperone. Nature Communications, 11:6442.

メディア掲載情報

日刊工業新聞(12月25日 20面)に掲載されました。