極低温分子を使い電子と陽子の質量比の不変性の検証に成功 -レーザー冷却を利用し、分子分光による検証精度の世界記録を更新-

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小林淳 理学研究科 特定准教授(兼・ 科学技術振興機構( JST)さきがけ専任研究者)、井上慎 大阪市立大学教授ら の研究グループは、極低温の分子を用いた精密分光実験により、物理定数である電子と陽子の質量比(1836分の1程度)の不変性の検証を行い、1年あたりの変化率を100兆分の1の精度で検証することに成功しました。これは分子を用いた最も高精度な検証実験になります。

本研究グループはこれまでの研究で、極低温の分子を生成し、さらに振動や回転などの分子の自由度を制御する技術を開発していました。今回の研究ではそれを電子陽子質量比の不変性検証に応用しました。特に、電子陽子質量比の変化に敏感な準位と鈍感な準位が近接している組み合わせを見出し、それらの間のエネルギー差を高精度に分光測定することで、検証を行いました。これらの準位を用いることにより、測定する周波数の精度に対して、1.5万倍も増幅された精度で電子陽子質量比の不変性が検証されます。測定の結果、常温の分子を使った測定よりも5倍以上高精度な検証を実現しました。

今後は極低温の分子をレーザー光で真空中に保持することによって、さらなる高精度化が期待されます。現在、2~3桁の精度向上に向けた新たな装置を開発中です。基礎物理定数の不変性検証の実験をダークマター探索の研究に応用する研究も進められるなど、今後の基礎物理学への貢献が期待されます。

本研究成果は、2019年8月21日に、国際学術誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究における実験の概要図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-019-11761-1

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/243784

J. Kobayashi, A. Ogino & S. Inouye (2019). Measurement of the variation of electron-to-proton mass ratio using ultracold molecules produced from laser-cooled atoms. Nature Communications, 10:3771.

  • 科学新聞(9月13日 1面)に掲載されました。