ALSの治療に新しい細胞移植法を提唱 -移植細胞を「表面に置くだけ」で中枢神経と筋肉をつなぐ-

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関谷徹治 医学研究科研究生(彦根中央病院医師)らのグループは、神経難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療には、これまでのように脊髄の中に移植細胞を直接注入するよりも、「表面に置くだけ」の方が、害も少なくより効果的である可能性が高いことを提唱しました。

本研究成果は、米国の科学誌「Trends in Neurosciences」7月号(2018年7月2日発行)に掲載されました。

研究者からのコメント

ALS(筋萎縮性側索硬化症)に対する細胞移植で重要なことは、適切な移植細胞の選択と患者さんの神経系を傷めない「移植方法」の採用です。これまで行われてきた移植細胞を脊髄内に注入する方法は脊髄に害を及ぼす恐れがありました。これに対して、移植細胞を脊髄の表面に置くだけの「表面移植法」では脊髄を傷めることはほぼありません。ALSに対して表面移植を提唱する背景には、傷ついた聴神経機能を表面移植で回復させることに成功したという実験成果があります。ALS患者さんの脊髄には、傷ついた聴神経で観察されたものと同じ構造ができてきますので、それらが脊髄と麻痺した筋肉をつなぐ足場となって神経再生に役立つ可能性があります。

概要

神経細胞死を本質とする筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病の治療には、細胞移植は有効な治療法です。しかし、従来の「移植細胞を神経組織の中に注射器で直接注入する」という方法は、本当にベストな移植方法であるのか実験的な検証がされないままでした。本研究グループは、ALSの治療には、脊髄の「表面に置くだけ」にした方が、害も少なくより効果的である可能性が高いと提唱しました。

また、瘢痕の突起が麻痺した筋肉の方向に長く伸びて、シュワン細胞という末梢神経の細胞と連結する現象が知られていますが、本研究では、細胞移植の観点からこれを「アストログリア突起・シュワン細胞複合体」と命名しました。そして、この構造が脊髄と筋肉の間を橋渡して、表面移植された細胞がそれに沿って突起を伸ばし、筋肉まで到達する可能性があることを提唱しました。本研究成果である、表面移植法がきっかけとなって研究の輪が広がり、ALSを含めたさまざまな神経難病の治療への新たな知見となることが期待されます。

図:本研究の概要図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.tins.2018.03.008

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/232940

Tetsuji Sekiya, Matthew C. Holley (2017). 'Surface Transplantation' for Nerve Injury and Repair: The Quest for Minimally Invasive Cell Delivery. Trends in Neurosciences, 41(7), 429-441.